真田丸第27回「不信」(2)秀吉の金春贔屓と手猿楽

このお稽古風景、鼻血が出るほど懐かしくて。
たいへんツボった真田丸第27回「不信」。

特にこの面の持ち方にも、感動。
金春流シテ方の山井綱雄先生のご指導の賜物かと。
シテは曲を終えて舞台より幕に入ったら、一度我が姿を幕と楽屋の間の鏡の間の鏡に映す。
下を向いたら汗が落ちるから、上向き加減にして、面を外す。
このとき、
手の脂が付くので、決して決してべちょんっと持ってはいけないのです。
【能楽の歴史】

(福知山市一宮神社の能舞台)
猿楽を元にする能楽は、足利義満、豊臣秀吉、徳川家康など、時の権力者の庇護の下で発展し、江戸幕府において「武家の式楽」となり最盛期を迎えます。

(福知山市一宮神社の能舞台)
その前に。
まず勢力を伸ばしたのが、興福寺等に属し、祭礼に奉仕した大和猿楽四座。
外山座 →宝生座
坂戸座 →金剛座
円満井座→金春座
結崎座 →観世座
これに元和年間に金剛座から分かれた喜多流を加えた「四座一流」が現在の能楽シテ方五流です。
応仁の乱から戦国時代にもなると、能の最大の庇護者であった足利幕府の威光が失われ、各座は一座を維持するために新たなパトロンを求め右往左往。
・小田原の北條氏 ← 宝生座の宝生家
・浜松の徳川家康 ← 観世座の観世元忠 など
・大坂本願寺 ←各座(最大のパトロン化)
そんな中に現れたのが、「手猿楽」。
手猿楽の「手」は、手料理の「手」。
いわゆる座付きの猿楽師ではない、「素人役者」です。
これが戦国期に流行し、権力者に限らず一般の人々による猿楽の流行をもたらします。
さ、そこで、秀吉です。
【秀吉の能好き、金春贔屓】
秀吉は、肥前名護屋に金春安照はじめ四座の役者や手猿楽(素人役者)を呼び寄せて演能させたり、
文禄2年(1594)に「禁中能」を催しています。

(高野山奥の院。豊臣家墓所)
秀吉の能好きの発端は、手猿楽との出会い。
手猿楽の有名人としては、この二人。共に金春座系。
①下間少進仲孝
金春大夫喜勝に師事。
大坂本願寺坊官の下間少進家の一人で、対信長戦では本願寺側の軍事責任者。
天正16年(1588 )頃から活発な演能を展開。
山科に存在した頃より芸能と繋がりの深かった本願寺では、財政的な豊かさも手伝って猿楽が盛ん。
本願寺内での演能記録、大坂寺内町での勧進猿楽が細かく『天文日記』に記されています。
挨拶に来た猿楽大夫が本願寺証如に請われて演能するなど、面白いです。
また、少進は演能記録「能之留帳」を、天正16年(1588)2月24日(摂津天満の舞台)より、以後元和元年(1615)11月2日まで、実に293回もの演能の場所・曲目・シテや三役・観客が誰か、を克明に記しています。
そして、この下間少進仲孝の舞台が、秀吉の能好きのきっかけに。
②暮松新九郎
金春座系。師匠不詳。秀吉の師匠となった人物です。

こんなお稽古じゃなくて

こうにちがいない。お上手お上手。
暮松新九郎(金春系)に能の手ほどきを受けた秀吉。
彼は、金春大夫喜勝の後継者である
「金春大夫安照(金春流六十二世宗家)」に師事します。

(金春流の5つの丸紋が描かれた「五星」の扇)
金春流は、豊臣政権公認の流儀として各地の武将たちが追随。
秀吉、猿楽に没頭。

さるはおだてりゃ調子にのる。
既存の作品を演じるだけでは飽き足らなくなり。
10番におよぶ新作能を創作。
それが新作能「豊公能」「太閤能」と呼ばれる作品群。
自分の功績を題材とした曲で、秀吉58歳のころに作られたと言われています。
有名な曲では、「吉野詣」「高野参詣」「明智討」「柴田」「北條」。
謡作詞は、法橋・大村 由己(秀吉御伽衆)。
節割り・型付けは、金春大夫安照(金春流六十二世宗家)。

「吉野詣」
吉野に参詣した秀吉に蔵王権現が現れ、秀吉の治世を寿ぐ祝言もの。

「高野参詣」
母大政所の三回忌に高野に詣でた秀吉に、大政所の亡霊が現れて秀吉の孝行を称える曲。
「明智討(討伐)」「柴田(退治)」「北條(征伐)」は、
題名のまんま。秀吉の戦功を称えたものです。
秀吉のえらいところは、謡って舞って、しゃららら~♪だけではなかった点。

猿楽の歴史において秀吉晩年のこの時期は、まさに、革命期。
つづく。
参考文献
『能楽談叢』(横井春野著/サイレン社/昭和11)
国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1257024
『能楽全史』(横井春野著/檜書店/昭和5)
『能に憑かれた権力者―秀吉能楽愛好記』(天野文雄著/講談社)
いつも応援いただきありがとうございます。
秀吉の能好きは、没頭して他がなにも見えなくなる、というより、無邪気に楽しんでいる感じがします。せっかく天下人になったのですから、自分を主役にした武勇伝を創作してみたかったんだろうなー。おのぼりさんだなーっと暖かい目で見てあげましょう。



お手数をおかけ致します。ありがとうございます。
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