藤原房前母、珠を奪いに龍宮へ。能「海士」と法華経と志度寺

こんにちは。


四国八十六番「志度寺」。

ここ、ずっと来たかったのー。

とってもとっても見たいものがありまして。

それがこちら。




・・・あいーん。


気を取り直して。


奈良の栄山寺は、藤原不比等の長男・武智麻呂のお寺。


讃岐の志度寺は次男・房前に所縁のお寺。


潮騒の音が聞こえるほど、海の近くの

志度寺に残るのは、房前と「海女」の悲しい伝承。

それが、能楽「海士(あま)」。


【能楽「海士」あらすじ】


奈良時代。藤原房前(13歳)が母が亡くなった讃州志度浦を訪れる。

一人の海人(シテ)が現れ、「房前は藤原不比等がこの浦の賤しい海人と契ってできた子である」と話し出す。

房前は母の事を知らず、家臣に尋ねても
「母君は讃州志度浦のあまっ、あまり申せば畏れ多い」と誤魔化されていた。



唐の妃となった不比等の妹。唐の高宗皇帝から興福寺に三つの宝物が贈られた。そのうちのひとつに「面向不背の珠」(釈迦の像が必ず正面にみえる不思議な宝珠)がある。


ちゃう。

が、不比等、珠を竜王に取られる。


ちっがーう。

不比等は志度へ来たものの、取り返せず海人と契る(こら)。
この時出来たのが、房前。



房前の母は不比等から約束をとりつける。

「珠を取り戻したら、この子を世継ぎとする」と。

彼女は、決意する。


「さては我が子ゆえに捨てん命。露ほども惜しからじ」と。




海人は、房前の母が、命と引き替えに海へ潜って取り返した様子(「玉之段」)を動きを交えて語り、「自分こそその母の霊である」ことを明かして姿を消す。


房前は、海人の残した手紙を見る。


披きて見れば魂黄壌に去って十三年。
骸(かばね)を白砂に埋んで日月の算を経。
冥路昏昏(めいろこんこん)たり。
我をとむらふ人なし。
君孝行たらば我が冥闇(めいあん)を濟(たす)けよ。



母の手紙には、「死後十三年が経っても弔う人がない。苦しい。助けて下さい。」とあった。

房前が母のために供養の法華経をよみ始めると、龍女に変身した母の霊(後シテ)が現れる。



母の霊は、法華経の功徳によって救われたことを喜び、舞う(早舞)。

龍女成仏 さてこそ讃州志度寺と号し。
毎年八講。朝暮の勤行。仏法繁昌の霊地となるも。この孝養と承る。


龍女は成仏した。

こうして「讃州志度寺」と号し、毎年の法華経読誦の法要や朝夕の勤行をする仏教の盛んな霊地となるのは、房前の親孝行のおかげなのだ、

と伝え、舞い納め、能は終わります。




さて。房前がよんだ法華経の詞章。

五逆の達多(だった)は天王記別を蒙り(こおむり)。
八歳の龍女は南方無垢世界生に生を受くる。
なほなほ転読し給ふべし。

深達罪福相(じんだつざいふくそう)
偏照於十方(へんじょうごじっぽう)
微妙浄法身(みみょうじょうほっしん)
具相三十二(ぐそうさんじゅうに)
以八十種好(いはちじゅっしゅこう)
用荘厳法身(ようしょうごんほっしん)
天人所載仰(てんにんしょたいごう)
龍神咸恭敬(りゅうじんげんくきょう)




がまんがまん。

これを無本で謡う身にもなってください。死ぬ。


で、これは『妙法蓮華経 提婆達多品(だいばだったほん)第十二』。

龍王の娘が世尊と多宝如来の前に忽然と現れて礼拝し、詩歌をもって仏を讃えます。

いわく、

如来は深く罪福の相を達して遍く十方を照らす。
微妙(みみょう)の淨き法身、三十二相・八十種好を以て荘厳せり。
天・人の載仰する所、龍神も咸く恭敬し一切衆生の宗奉せざる者なし。



うんうん、それでいいのよー。


これは、「法華の教えの功徳」によって、八大龍王である沙伽羅(しゃから)龍王の八歳の娘(蛇身)が、『畜生+女人の身』でありながらその場で成仏し、南方無垢世界へと飛び去った、という部分。

なぜ詞章において、くどくどと法華経を述べるかというと。

この経典の記述を受けて、本作のシテも、法華経の力によって竜女の姿となり、そして成仏する存在なのだった、と描こうとしているわけです。

『畜生+女人の身』でありながら、成仏した、と。そゆこと。




母が命がけで「面向不背の珠」を取り返したことで、約束通り、房前は不比等の後継者、大臣になることが出来ました。



房前は千基の石塔を志度寺に建て、母の菩提を弔います。

それが


志度寺に残る海女の墓と伝わる五輪塔(中央)と石塔群。

左右のでっかいものは、法華経塔。
この中に法華経が納められているとか。



房前が建てた石塔群と海女の墓に会いたくて、讃岐への旅に出たわたくし。

ああ、こうして記事にすることができて、幸せ。

しあわせしあわせしあわせ・・・(*^_^*)



たとえこんな変なことになっていようともっ!!

・・・あいーん(T_T)


次回。乳の下をかき切る房前の母の巻。つづく。


志度寺
《住所》香川県さぬき市志度1102



ふたつ西側の駅は、「房前」なりぃ~★


参考文献
観世流大成版『海士』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)


いつも応援いただきありがとうございます。お稽古を始めると謡の詞章に出てくる土地を訪ねたくなるもので。京阪神なら何とか学生でも行けますが、四国となるとちょいと大人の世界。お稽古を始めて四半世紀。やーーーーっと憧れの志度寺に、しかも自分の愛車(←大事)で行けたので、とってもとっても嬉しかったです。不比等のヘタレっぷりも素敵で、きゃっほーい♪なのです。
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ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
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No title

なるほど~法華経の「竜女の成仏」を元ネタにした謡があったとは知らなかったです。

法華経は一切経(全ての経典)の中で最高の教えと伝えられてたので、
納経(土の中に筒を作って経典を仕舞うのが一時ブームだった)の時の経典も法華経だったりとか。

源氏物語にも法華経の話があるって聞いたけど、地元に専門書がなくて札幌から取り寄せするのに時間かかりすぎて未確認のまま^^;

>たとえこんな変なことになっていようともっ!!

あ~~~っと、今様に緩くなってたようで^^;
大丈夫!しあわせは逃げないから^^/

ぽちぽちぽちーーー☆

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

能のパターン

①何かの前でボーッとしてると地元の人が由来を語る。
②じもぴーは実は由来話の主人公で、弔ってくれと頼む。
③供養の経を唱えると、それが幽霊や神の姿で現れて礼を言い、舞う。

謡には様々な経がわんさかわんさか出てきますが、供養の場面で唱えるのは、法華経が多いです。

「鵜飼」という曲では、小石に法華経を一字ずつ書いて川に沈めて供養する、なんて根気のあることしてます。

有名どころでは、「道成寺」と法華経。
これは、もともと「道成寺縁起」が法華経流布のためのものなので。

龍女は龍神の前フリのような立ち位置が多いので、大抵、突然「ぴゃーっ」と現れて、「わーっ」と舞って、去る。

なので、龍女が後シテになっている時点で、海士の元ネタストレートを表してますね。

納経。

経筒かな?土に埋めるとさらに功徳が増すとかいう。
古いお寺の宝物館に行くと、いろいろな形のものが出土していて、面白いです。

源氏物語は、紫式部が法華経に精通してたんじゃなかったかしら。

確か紫の上が法華経千部供養を催してたような?
ご存じかもしれませんが、京都の風ぞ九(俗、ね)博物館の源氏物語特集が面白いです。ジオラマ風。

ここ、名前がアレなんですが、古代からの服飾に特化した博物館で、装束を調べるのに重宝してます。

ホムペもあるので、お暇なときにぜひ。

時乃★栞様は宗教史もお詳しいんですよね。
ちょっとドキドキしながら記事を書きました。へへへ。

海士の墓。あいーん。

ゆるゆるやん。なんでなん。顔出したろか思たわぁ。

そんな感じ。ぶーぶー。

しかも、廃線の枕木フェチかよ!?ってな、ぶっとい棒がつんつん立ってて見えないしっ。

ほんとぉー?幸せ、逃げない?

本気で「へちょーん」ってへこんだんだよー。
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つねまる

Author:つねまる
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古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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