『松前詰合日記』流氷が来てお正月

こんにちは。

斉藤勝利の記した『松前詰合日記』の表紙。

「此一冊は 他見無用 

   松前詰合日記 

 永く子孫江と伝」



斜里に流氷が着岸した11月中旬。

斉藤勝利の記した『松前詰合日記』には、日々死んでいく仲間達の名前が並び始めます。


《寒いよ寒いよ~》(『松前詰合日記』より)

11月14日(陽暦12月12日)から吹雪が強く、寒気もいよいよ厳しくなったので、外出を禁止。
しかし、井戸がないので川水を使用しているが、大荒れになったので浪高く、川口に潮水が混入し、水汲みの者どもは非常に難儀した。

また陣屋内で話合いをしても、浪音が高くて言葉も聞き取りかねた。



故郷の弘前よりも「綿入れ2枚ぐらい重ねたい」程の寒気に震え、
海岸の流氷の山に驚く一同。

井戸がなく、水汲みの為に川へ行かなくてはならない環境は、
この後も藩士達にとって負担になります。

いよいよ厳冬となる中でも、津軽藩士達は外国船から国を守るための勤番を命ぜられた為に、公儀役人の武芸検分の要請に応えています。


11月22日。

作事請払役工藤文作・勘定人加勢田中才八郎・勘定人笹森寛蔵の連名で、
津軽藩三御長屋賄方宛に「尚、切組帳早々に申し出られるよう」と要請。

1.克己守格太刀 表一本 土岐専司  同ニ本目 葛西善弥 
  同三本目 藤田伊三郎 同四本目・五本目 斎藤文吉
  右打方 田中才八郎

右はこのたびご検分につき出仕する者の名前である。以上。

武芸検分に出場する者達は、午前8時うちに揃って出仕するよう御申達があった。


・・・この頃までは、元気な人もいたんだなー(T_T)

「希望の者は精々訓練に励むようにとの御申達があるよ、きっと」とも記していますが「しばらく武芸検分はやめとこうか」との知らせが届きます。

それどころじゃないのです。


オホーツク海の流氷


《死亡者の記録》(『松前詰合日記』より)


日記によれば、11月中旬頃より詰合御人数の大部分が浮腫病に罹患。

はじめは「水汲み、飯炊き、薪作りなど」を残る健康な者が行うものの、やがて軽症者も手伝わなくてはならなくなり、役分に関係なく従事する事態に。


11月25日
最初の死者が出ます。

11月25日~12月12日の間に8名が死亡。

死因は「浮腫病」。

12月末までの2週間に10名が死亡。
この間に、斜里詰合公儀・金井泉蔵も死亡。


病状の悪化した者の中には、宗谷での養生を希望した者が多くいました。


(1807年当時は東西蝦夷地は幕府直轄領)

松前から宗谷へ入り、オホーツク海を南下した津軽藩士達の認識は
「斜里は宗谷より更に77里の奥蝦夷地」(7月16日の日記)。

また、宗谷には津軽藩士が数多く詰めています。

しかし、彼等は途中の網走や紋別で死亡。

アバシリ(網走)は斜里より9里。
「蝦夷家は30軒ある。ここに甲岩があり、小廻船の停泊するところ」

紋別は網走から宗谷の途中。
「公儀の会所があり、紋別川では鱒・鮭の漁獲があり、船付き場所でもある。蝦夷家は35、6軒ある。」


『松前詰合日記』は個人的性格よりも「公的な日記」であることは前記事で述べました。

斜里で死亡した者の氏名・死亡日を克明に記録することは、論功行賞や死亡者家族への対応等事後に予想される様々な事態に備えるのに必要な事項。

現地での対応も記述されます。

浮腫病(壊血病)にかかり病死したのでこれを上役へ報告したところ、足軽目付桜庭又吉ならびに同役の者どもが立会いのうえ、死者の所持品を点検して帳面に記し、目付の者が封印して荷物とし、物置所へ保管した。

日記とは別の「帳面」の存在が判ります。

文中に記された目付。なんと肝心の目付自身が後日、病死。


《それでも礼節は保ってるよ》(『松前詰合日記』より)

こんな状況下でも、お正月はささやかながら。


(お鏡餅はありませんでした)

12月28日。松飾の日となったが、雪中のこととて松・竹・ゆずり葉・海老の類はないので、松のかわりにトドの木に笹の飾りをつけて、ともかくも大晦日の年越しをした。
別段料理ごともなかった。

文化5年(1808年)1月1日(陽暦1月28日)~1月29日

文化5年辰年となった。

辰の正月元日(陽暦1月28日)となり、めでたく挨拶の遣い初めをして祝儀は整った。

公儀御役人衆へ年始のお祝いとして、笹森寛蔵、田中才八郎および医者石井隆仙が参上した。その他の大筒役黒石三郎兵衛・鳴海八弥・佐々木直八、作事受払役工藤文作ら主だった者は病気のため同行できなかった。さて三御長屋諸組の者どもは、上御長屋へ平服で御祝に参上、それからほかの御長屋にも挨拶に回った。

正月4日、松飾を引き締め、これでお祝儀は済んだ。



津軽藩士達は、一番隊・二番隊・三番隊の三隊で斜里へ赴任。
それぞれ上中下の長屋に居住します。

三隊各々の管理職3名が年始挨拶のため公儀御役人衆(斜里詰合公儀・金井泉蔵は既に死亡)へ参上。

三つの長屋もお互いに年始挨拶。

この松の内の間にも5名が死亡。

以降1月末日までに死亡したのは、22名。
相次ぐ病死は残りの病人達の気力を奪ったことは言わずもがな。


ともに哀れを催したことであった。(『松前詰合日記』より)


つづく。


参考文献
「知床博物館第13回特別展図録『近世の斜里』」
「知床博物館第3回特別展図録『斜里—下町の歴史散歩—』」(斜里町立知床博物館刊)

斜里町HP「町のあゆみ」
https://www.town.shari.hokkaido.jp/20syokai/20rekishi/10ayumi/

サイト「斎藤文吉の『松前詰合日記』を考える」
→→斎藤文吉の「松前詰合日記」を考える
http://island.geocities.jp/pghpnit1/saitohbunkichi.html

※記事中の緑文字は上サイト中『松前詰合日記』より引用

北海道大学北方関係総合目録『松前詰合日記』
http://www2.lib.hokudai.ac.jp/cgi-bin/hoppodb/record.cgi?id=0A030250000000000


いつも応援いただきありがとうございます。「トドの木に笹の飾り」というあまりにささやかな松飾り。病人が多数出る中、新年を迎えたんだよ、と伝える気遣いなのでしょうか。次々に罹患する彼等のおかれた環境は、生木の長屋にすきま風、暖をとる為にくべる薪も生木で煙がもうもう。目前の海を覆う流氷と浜辺の長屋を襲う強風。春はまだかまだか。
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こんばんは〜

この厳しい冬のお話…読んでいると想像できるだけに寒さが身にしみます…(笑)。斜里の方はここ数年毎年吹雪になり大変なことになっているエリアです。そんな気象状況も考えると本当に大変だったろうなーとしみじみ思うのでした。

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No title

目を覆うばかりの惨状だったでしょうね。
生木を燃やして煙がもうもう。
読んでいるだけで、私も目が痛くなってきました。

「此一冊は 他見無用」ですか・・・
重い言葉ですね。
こういう犠牲者を、きちんと後世まで弔ってあげなければならないですね。

とかちスイーツクラブ スタッフ1号様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

ふふふ。想像できる方には寒さが身に染みますよね、きっと。

真冬でも、ダウンが時々暑いかも?と思う土地からでは、
なまぬるい想像しかできませんが・・・。

あ、そうそう。斜里の方、大変なことになるんですね。
ホワイトアウト?
視界が真っ白になる、あれ。

そんな時に海辺の小屋で過ごす。

幕府の人も少しは考えてやれよーと思うのですが。
お役目大事、なのかなー。

万見仙千代様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

キャンプでうっかり生木を燃やすと、狼煙を上げたみたいになりますが。
あれを室内でやったんですね。

故郷でも薪は燃やしたでしょうから、生木の危険性は熟知していたはず。
それでも、近くにないし、燃やさないと寒い。
本当に目を覆うばかりの惨状であったろうと思います。

藩内でも秘されていたそうですので、この日記の発見は大きいですね。
今も古書店には、思わぬものが眠っているんでしょうね。

この津軽藩士達の供養塔は、斜里に残ります。
博物館にも関係資料の展示がありましたが、
オホーツク海を眺める方が、いろいろとイメージできました。
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