恥ずかしがりやの葛城の神、大和舞を舞う。能「葛城」
こんにちは。
能「葛城」の前段では。

葛城山は雪の中。山伏一行を自宅に案内した里の女。
山伏一行が夜の勤行を始めようとすると、
私も加持祈祷して欲しいと望みます。
何故なら「三熱の苦しみ」と「五衰の苦しみ」を身に受けて苦しみが絶えないのだ、と。
神のみが負う二つの苦しみを述べる事で、我が身は人ではないことを暗示し、
女「恥ずかしながら古の。法の岩橋架けざりし。
その咎めとて明王の。索にて身を縛しめて。
今に苦しみ絶えぬ身なり。」
役小角説話を持ち出して、一言主神を連想させて姿を消しました。(中入)
前後段の間に、間狂言(里のもの)から役小角と葛城の神の話を聞いた山伏一行は、あの里女こそ葛城の神の化身だと気付きます。
【能「葛城」・後(ノチ)】
山伏一行が「一心敬禮(いっしんきょうらい)」と仏を禮拝すると、
女神の姿をしたシテが現れます。
仏教の言葉で神様が顕れる。
何とも不思議な現象ですが、能が作られた時代には、不思議とも変とも思わなかったのですね。

頭上に天冠、大口(袴)、長絹or舞衣の装束は、女神の出で立ち。
前シテの地味な里女から一変。神々しい姿です。
しかし、他と違うのは、容貌が美しくないこと。
シテ「われ葛城の夜もすがら。和光の影に現れて。
五衰の眠りを無上正覚の月に覚まし。
法性真如の寳(たから)の山に。
法味に引かれて来たりたり。よくよく勤めおはしませ。」
寳山とは、葛城山の別名。
仏教の手向に引かれて、神仏が衆生を救う光や悟りの月がぴかぴかする中、葛城山に来たのよ。よくよく勤行して下さいな。
と、「気高くスラリ」と謡いあげます。
しかしその姿は、美しい玉飾りをつけているのに身体には蔦葛が這い纏わる哀れな姿。

ぷれいではありません。

役小角の命で葛城山と大峰山に岩橋を架ける時、己の醜い姿を恥じて昼間は隠れた葛城の神・一言主神は

役小角の怒りに触れ、葛で縛られ谷底へ放置。
この時の葛が不動明王の索のように葛城の神の身を縛っているのです。
地「葛城山の岩橋の。夜なれど月雪の。
さもいちじるき神體(しんたい)の。
見苦しき顔ばせの神姿は恥ずかしや。
よしや吉野の山葛。かけて通へや岩橋乃。高天の原はこれなれや。
神楽歌始めて大和舞いざや奏でん。」
シテ「降る雪の。楚樹(しもと)木綿花(いうばな)の。
白和幣(しらにぎて)」
夜なのに月や雪の明るさに露になる神の姿。
醜いお顔の葛城の神の姿は、恥ずかしいわ。
えーい、天岩戸の神話の舞台となったこの山で、
その時の神遊びの舞「大和舞」を、山伏たちに見せちゃるわー。
楚樹に降り積もった雪がまるで木綿花をつけた御幣みたいねー(*^^*)

そして、シテの葛城の神は「大和舞」に見立てた序之舞を舞います。
ここがこの曲の主題。ゆったりとした調べ。

ゆったりゆったり・・・ZZZ
ゆったりと舞った後は、さらっと明るく。
地「高天の原の岩戸の舞。高天の原の岩戸の舞。
天乃香久山も向いに見えたり。
月白く雪白く。
いづれも白妙の 景色なれども。
名に負ふ葛城の。神の顔がたち面(おも)なや面(おも)はゆや。
はづかしや浅ましや。
あさまにもなりぬべし。
明けぬ前(さき)にと葛城の。
明けぬ前(さき)にと葛城の夜の。
岩戸にぞ入り給ふ岩戸の内に入り給ふ。」
ここでも葛城の神は、自分の容貌を恥じ、夜が明ける前に閉じ込められた葛城山の岩戸へと入っていくのでした。

《メモ》
小書(特別演出)の「大和舞」では、序之舞は「神楽」に変わり、
天岩戸の前で舞われた「大和舞」の趣が強くなります。
能管(笛)の対比
序之舞
オヒャーラー・オヒャイヒョォーイヒャーリウヒー
神楽
オヒャーラー・リーイヤーララー・リーイヤーラァラァラァァララー

謡曲「葛城」が作られた時代、天岩戸は大和国葛城山にあると考えられていました。
天岩戸に閉じ籠った天照大神に出てもらおうと天鈿女命が岩戸の前で舞った「大和舞」が神楽の初めであり、日本の芸能のはじまりだとされています。

以上、能「葛城」でした。
かづらき、ね。住所は、かつらぎ。
おしまい。
参考文献
観世流大成版『葛城』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)
いつも応援いただきありがとうございます。『古事記』『日本書紀』では雄略天皇と同じ容貌の男神だった葛城の神・一言主神。能「葛城」に見られるように、中世には女神だと考えられるようになります。これは「自らの容貌を恥じ」夜だけ顕れた事から来たようです。うーむ。微妙に失礼な。役小角説話と天岩戸伝説の舞台である葛城山。能「葛城」はこの二つをひとつの曲に仕上げたものなのでした。



ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
能「葛城」の前段では。

葛城山は雪の中。山伏一行を自宅に案内した里の女。
山伏一行が夜の勤行を始めようとすると、
私も加持祈祷して欲しいと望みます。
何故なら「三熱の苦しみ」と「五衰の苦しみ」を身に受けて苦しみが絶えないのだ、と。
神のみが負う二つの苦しみを述べる事で、我が身は人ではないことを暗示し、
女「恥ずかしながら古の。法の岩橋架けざりし。
その咎めとて明王の。索にて身を縛しめて。
今に苦しみ絶えぬ身なり。」
役小角説話を持ち出して、一言主神を連想させて姿を消しました。(中入)
前後段の間に、間狂言(里のもの)から役小角と葛城の神の話を聞いた山伏一行は、あの里女こそ葛城の神の化身だと気付きます。
【能「葛城」・後(ノチ)】
山伏一行が「一心敬禮(いっしんきょうらい)」と仏を禮拝すると、
女神の姿をしたシテが現れます。
仏教の言葉で神様が顕れる。
何とも不思議な現象ですが、能が作られた時代には、不思議とも変とも思わなかったのですね。

頭上に天冠、大口(袴)、長絹or舞衣の装束は、女神の出で立ち。
前シテの地味な里女から一変。神々しい姿です。
しかし、他と違うのは、容貌が美しくないこと。
シテ「われ葛城の夜もすがら。和光の影に現れて。
五衰の眠りを無上正覚の月に覚まし。
法性真如の寳(たから)の山に。
法味に引かれて来たりたり。よくよく勤めおはしませ。」
寳山とは、葛城山の別名。
仏教の手向に引かれて、神仏が衆生を救う光や悟りの月がぴかぴかする中、葛城山に来たのよ。よくよく勤行して下さいな。
と、「気高くスラリ」と謡いあげます。
しかしその姿は、美しい玉飾りをつけているのに身体には蔦葛が這い纏わる哀れな姿。

ぷれいではありません。

役小角の命で葛城山と大峰山に岩橋を架ける時、己の醜い姿を恥じて昼間は隠れた葛城の神・一言主神は

役小角の怒りに触れ、葛で縛られ谷底へ放置。
この時の葛が不動明王の索のように葛城の神の身を縛っているのです。
地「葛城山の岩橋の。夜なれど月雪の。
さもいちじるき神體(しんたい)の。
見苦しき顔ばせの神姿は恥ずかしや。
よしや吉野の山葛。かけて通へや岩橋乃。高天の原はこれなれや。
神楽歌始めて大和舞いざや奏でん。」
シテ「降る雪の。楚樹(しもと)木綿花(いうばな)の。
白和幣(しらにぎて)」
夜なのに月や雪の明るさに露になる神の姿。
醜いお顔の葛城の神の姿は、恥ずかしいわ。
えーい、天岩戸の神話の舞台となったこの山で、
その時の神遊びの舞「大和舞」を、山伏たちに見せちゃるわー。
楚樹に降り積もった雪がまるで木綿花をつけた御幣みたいねー(*^^*)

そして、シテの葛城の神は「大和舞」に見立てた序之舞を舞います。
ここがこの曲の主題。ゆったりとした調べ。

ゆったりゆったり・・・ZZZ
ゆったりと舞った後は、さらっと明るく。
地「高天の原の岩戸の舞。高天の原の岩戸の舞。
天乃香久山も向いに見えたり。
月白く雪白く。
いづれも白妙の 景色なれども。
名に負ふ葛城の。神の顔がたち面(おも)なや面(おも)はゆや。
はづかしや浅ましや。
あさまにもなりぬべし。
明けぬ前(さき)にと葛城の。
明けぬ前(さき)にと葛城の夜の。
岩戸にぞ入り給ふ岩戸の内に入り給ふ。」
ここでも葛城の神は、自分の容貌を恥じ、夜が明ける前に閉じ込められた葛城山の岩戸へと入っていくのでした。

《メモ》
小書(特別演出)の「大和舞」では、序之舞は「神楽」に変わり、
天岩戸の前で舞われた「大和舞」の趣が強くなります。
能管(笛)の対比
序之舞
オヒャーラー・オヒャイヒョォーイヒャーリウヒー
神楽
オヒャーラー・リーイヤーララー・リーイヤーラァラァラァァララー

謡曲「葛城」が作られた時代、天岩戸は大和国葛城山にあると考えられていました。
天岩戸に閉じ籠った天照大神に出てもらおうと天鈿女命が岩戸の前で舞った「大和舞」が神楽の初めであり、日本の芸能のはじまりだとされています。

以上、能「葛城」でした。
かづらき、ね。住所は、かつらぎ。
おしまい。
参考文献
観世流大成版『葛城』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)
いつも応援いただきありがとうございます。『古事記』『日本書紀』では雄略天皇と同じ容貌の男神だった葛城の神・一言主神。能「葛城」に見られるように、中世には女神だと考えられるようになります。これは「自らの容貌を恥じ」夜だけ顕れた事から来たようです。うーむ。微妙に失礼な。役小角説話と天岩戸伝説の舞台である葛城山。能「葛城」はこの二つをひとつの曲に仕上げたものなのでした。



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