能「葛城(かづらき)」。神が受ける苦しみと古歌

こんにちは。


『古事記』では、雄略天皇に瓜二つな雄々しい姿の男神。

平安時代には、役小角に石橋を作らされ、


容貌が醜いのを恥じて昼しか働けなかったのに、怠慢な奴だー!っと呪縛され谷底へ放置されるはめに。

お気の毒な神様。


恥ずかしがり屋の一言主神。

しかし、一言主神の姿は、謡曲の世界でさらに変化します。

男神から、女神へ。

えー。


【能「葛城」】

地名では「かつらぎ」ですが、能の葛城は「からき」と読みます。

これが初めは頭がこんがらかり。

かつらぎ、かづらき、かづらぎ(違)、どれ?


師匠稽古でごまかし叱られる。


作者は世阿弥元清。
題材は『日本霊異記』『源平盛衰記』などの葛城山伝説。
季節は、冬。


葛城山。一面真っ白な雪景色に脳内変換。


葛城山へ来た羽黒山の山伏の一行。
吹雪に見舞われ難渋していると、近所の女が通りかかり。


お気の毒に、と、自宅に山伏一行を一夜泊めてあげることに。

彼女が手にしているのは、楚樹(しもと)。


葛城山で拾い集めた小枝を葛(かづら)で括ってまとめたもの。


その楚樹(しもと)を火にくべ、一行は古歌について語り合います。


「しもと結ふ葛城山に降る雪の 間なく時なく思ほゆるかな」
(読み人知らず・古今和歌集)


楚樹(しもと)を結う葛(かづら)は、同音の葛城山に寄せて枕詞としました。
それは、この「古い大和舞(やまとまい)の歌」にも詠まれているのだと、女は山伏一行に教えます。

※大和舞とは、大嘗祭や鎮魂祭で舞われる舞のひとつ。

やがて夜になり、山伏一行が夜の勤行を始めようとすると
女が勤行のついでに私も祈祷して助けてほしいと願います。


女「さなきだに女は五障の罪深きに。
 法(のり)の咎めの咒詛を負ひ。
 この山の名にし負ふ蔦葛(つたかづら)にて身を縛(いまし)めて。
 なほ三熱の苦しみあり。」

山伏「そも神ならで三熱の。苦しみと云ふ事あるべきか。」

女「恥ずかしながら古の。法の岩橋架けざりし。
 その咎めとて明王の。索にて身を縛しめて。
 今に苦しみ絶えぬ身なり。」

(中略)

地「明くるわびしき葛城の。
 神に五衰の苦しみあり 祈り加持して賜(た)び給へと。
 岩橋の末絶えて。神隠れにぞなりにける。神隠れにぞなりにける。」



※三熱の苦しみ

仏教では、龍に三熱の苦しみあり、と説きます。

熱風・熱砂に身を焼かれること、悪風が吹きすさんで住居・衣服を奪われること、金翅鳥 ( こんじちょう) に食われること。


恐ろしやー。


※五衰の苦しみ

最期を迎える天人に現れる五つの衰え。

衣裳垢膩・頭上華萎・身体臭穢・腋下汗出・不楽本座。(経により諸説あり)


字面から推量してあげて下さい。


これら二つを神にも転用しており、山伏は「神だけが負う苦しみを人間の貴女が負うことなんてないでしょ」と突っ込んだのです。

女の言葉には、役小角説話における一言主神の姿が、あちこちに伏線として語られていますが、回収出来るのでしょうか。

後半につづく。

参考文献
観世流大成版『葛城』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)


いつも応援いただきありがとうございます。謡曲で「かづらき」と読むのは、楚樹(しもと)を結う葛(かづら)から来るのかな、いや、葛は「かつら」とも言うし。かづらき!っと念を押しても、師匠稽古では本を見ずに謡うのが基本だったので、緊張すると、すっかーっと忘れてー。おほほほ。
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No title

こんばんは!

今日は能の解説をありがとうございましたm(__)m
日本の伝統芸能は、歌舞伎しか見たことがなく、能の見方がわかりません。
やはりある程度は、知識を持ってみないと
???になってしまうのでしょうね。

しずか様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

えへへ。解説だかお邪魔だかわからない内容ですが、手間はかかっております。

歌舞伎をご覧になっているなら、能からとられた題材が多いので、面白いなと思う曲があろうかと存じます。

道成寺、安宅、船弁慶、石橋(連獅子)等、詞章が同じ箇所があります。

知識なんていらないですよーと言いたいところですが、
鑑賞するなら事前に曲の内容と言葉をネットで調べて持参するか、
大きな書店か通販で、謡本を手元にされるのがよろしいかと。

土蜘蛛や船弁慶は、ぽーっと見ているだけで楽しいですよー。

私は、歌舞伎を拝見するときに能と見比べてしまい、おおお、あれがこうなるんだー!すごいなーっと思いながら夢中になります。

でも、なかなか観に行けなくてー(T_T)クヤシイ

No title

>かづらき

えっと・・・「いばらぎ、じゃないよ。いばらき(茨城県)」を思い出した^^

女性化しちゃうとは、時代の最先端な神様です(←おぃ)

うーん・・五衰・・・腋下汗出←これが一番イヤ^^;
自分、汗っかき体質で夏場に苦労してるから^^;

一言主神たんにエール~ぽちぽちぽちーーー☆

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。うふふ。

関西だと、「いばらぎ、じゃないよ。いばらき(茨木市)」なのです。
大阪府下ですが、京都との間の重要拠点。
古墳もりもり、藤原さんの荘園、楠木正成、高山右近がメーテルのように通りすぎて行った場所。

五衰、謡曲ではよく出てくるお気の毒な言葉でして。

天女や迦陵頻伽が顕れる時は、まず、いい匂いがして、音楽が聞こえてくるのです。

「不思議や虚空に音楽聴こえ。異香薫じて花ふれり」(『吉野天人』より、天人が顕れる前の詞章)

なので、不潔系の責め苦が死期の前兆なのかなーと。

腋下汗出。

私もやだわー。

汗っかき?・・・ねーねー。一度夏の大阪においでになりませんこと?

天国を見るぜいっ。

No title

こんばんは。

あくまでもひどい役小角。
可哀想な一言主神。

男神から女神へ。
それも醜女だったわけ?
おまけに、何その五衰。
私、三熱の苦しみより、五衰の苦しみの方がイヤだーーー!
どこかに隠れちゃうわ。

万見仙千代様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

役小角は葛城の神に対してえげつないですね。
仏教 対 神様、のような気がします。

天女が顕れる時は、まず、迦陵頻伽(かりょうびんが)という人面鳥身の女性達が音楽を奏でながら飛んで来て、いい匂いがしてくるそうです。

仏像や本堂の背後や周囲に、雲に乗った女の人が飛んでいる事があるのはこれで。
平等院では彫刻が仏像を囲みます。

天女はきれいでいい匂いがするこの世のものではない人なので、葛城の神に援用して、五衰の苦しみを与えていますね。

ごすい。

私もいやー。

汗臭いとか、枯れるとか、最悪~( ノД`)…

学生の頃、楽屋に来たせんせが「若者のにおいがする♪」と言ったんです。
デオドラントのライムやレモンの香りが、おばちゃんと違うわーって。

うーむ。おばちゃんになった私は、ぶおおおーっと爽やか系のいろんなもんを振りかけています。
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古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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