能「菊慈童」と菊の葉の水

こんにちは。

本日は、謡曲「菊慈童」のお話。

菊の季節によく上演される曲です。

素材は、『太平記』巻十三「竜馬進奏事」などの慈童説話。


金剛寺。菊慈童の屏風。


酈縣山(れっけんざん)の麓から薬の水がわき出たので、
魏の文帝の命により臣下が酈縣山の奥へ調査に。

なんと山奥には、菊の花。
そこで、周の穆王(ぼくおう)の寵愛を受けていた慈童と名乗る少年と出会います。

穆王がいたのは、七百年も昔。こは如何に?

慈童はある日、穆王の枕をまたいでしまい・・・



その罪で酈縣山(れっけんざん)に捨てられることに。

慈童は穆王から仏徳を讃える偈(げ)を記した枕を賜り、
それを忘れないように菊の葉に書き写しました。



具一切功徳慈眼視衆生(ぐいっさいくどくじげんじしゅじょう)
福聚海無量是故應頂禮(ふくじゅかいむりょうぜこおうちょうらい)

観音経(法華経普門品)の最後の部分。
観音経は、観世音菩薩の慈悲の心を信じて名前を唱えれば必ず救ってくれると説いたもの。


すると、この菊の葉の上に集まった露が薬水に。

その薬水を飲んで、慈童は不老不死になり、七百の齢を数えているのでした。

咲き乱れる菊の花の中、慈童は、御代を寿いで「楽(がく)」の舞を、時に菊の花に戯れるように軽快に舞います。

慈童が舞う楽は、太鼓が入り、笛は異国風の調べで、足拍子が多く華やか。



詞章(楽の舞のあと)

即ちこの文菊の葉に。即ちこの文菊の葉に。
悉く顕る。さればにや。
雫も芳ばしく滴りも匂ひ。
淵ともなるや谷陰乃水の。
所は酈縣(れっけん)の山の滴り菊水の流れ。



「淵ともなるや」
「我が宿の菊の白露今日ごとに 幾よ積つもりて淵となるらん」
清少納言の父である清原元輔の歌(『拾遺集』)。

菊の葉に書いた経文の功徳は、菊の葉に移り、
その雫からは菊の香りがただよい、やがて水がたまって渕となり、
谷陰から流れ落ち、酈縣山の菊水の流れとなっていたのでした。




泉は元より酒なれば。
汲みては勧め掬ひ(すくい)ては施し。
我が身も飲むなり飲むなりや。
月は宵の間その身も醉ひに。
引かれてよろよろよろよろと。
ただよひ寄りて枕を取り上げ戴き奉り。
げにもありがたき君の聖徳と岩根の菊を。
手折り伏せ手折り伏せ。敷妙の袖枕。
花を筵(むしろ)に臥したりけり。




シテ:元より薬の酒なれば。


残念なお知らせです。薬の酒は酔いつぶれません。


元より薬の酒なれば。醉ひにも侵されずその身も変わらぬ。
七百歳を保ちぬるも。この御枕乃故なれば。
いかにも久しき千秋の帝。萬歳乃我が君と。
祈る慈童が七百歳を。我が君に授け置き。
所は酈縣の山路の菊水。
汲めや掬(むす)べや飲むとも飲むとも。
盡きせじや盡きせじと。
菊かき分けて山路の仙家に。
そのまま慈童は。入りにけり。



観世流以外ではこの「菊慈童」を「枕慈童」と呼びます。

菊の薬水によって長寿と御代を寿ぐ内容で、格段難しいお話もなく、
慈童の舞を堪能する華やかな曲です。


おまけ。

謎の枕。


参考文献
観世流大成版『菊慈童』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)


いつも応援いただきありがとうございます。菊といえば、菊慈童。しずくぅもぉ~こぉばしくぅ~♪っとぶつぶつ謡いながら散策する怪しい人です。ふふふ。お話の内容にこだわらず、さくっと楽しむことが出来るので、人気曲です。9月9日の重陽の節句前後に演能が多いです。
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非公開コメント

こんにちは

最後の謎の枕に確かに「うそーん」ですよね(笑)

No title

こんばんは。いつも楽しい記事をありがたうございます。
さて、この場面は、塩治判官が龍馬を献上して、主上(後醍醐天皇)の御叡覧になられて、左右に吉凶いかにと問はれた処ですね。
漢唐の故事で、難解だなと思つてをりましたが、今回の投稿を讀ませて頂いて、なんとなく理解できたやうな気がします。

いつも、興味深いお話をお書き頂きありがたうごました。

とかちスイーツ スタッフ1号様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

そうなんです。失礼ながら、うそーん。

普段言わないけど、なんでやねん。

素敵な屏風ねーっと拝見してたのに、まことに謎のものが。

とかくお寺は難しい。えへ。

橘右近大夫様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

さすがでございます。それです。

馬を誉めるのに何で慈童やら菊やらが出てくるのか、頭がうにゃうにゃになりました。

要は、「みんな穆王の天馬の功徳なのよー。だから駿馬がやってきたのは、吉兆なんですよー」っと言いたかったんですね。

馬を誉めるだけで延々と異国の話を挟む点が、太平記のもにょもにょな所というか何というか。

本気で謡を紐解くと、故事や和歌や仏教の教えが山のように隠れているので、気絶します。

なので、謡ってなんぼ、舞ってなんぼ、の体育会系お稽古してます。

舞台で映えてこそ、げーじつなのだー。おー。

こちらこそ、ずばっとしたコメント、ありがとうございました。

No title

こんばんは。お邪魔します。
謎の枕、、金剛寺に何で伝わったお宝かますます謎が深まります~~
菊慈童さま 不老不死でまだどこかで舞ってらっしゃるのでしょうか など思いを馳せ 薬の酒 酔わぬとなれば うれしいお知らせ?、、かもでございます。私めには。。 叶わぬと思いますが(^^;

No title

菊枕~~

小説「竜馬が行く」で、おりょうと竜馬が菊枕で痴話げんかしたのを思い出した^^

>枕をまたぐ

昔は「枕をまたいじゃダメ(`・ω・´)」って注意されたけど、
今はあんまり聞かなくなりましたね^^

BED(寝台)だと枕はまたげないもんネー(*´・д・)(・д・`*)ネー

つねまる様、甘露をどぞ(*´∀`)つ【菊花酒】
ぽちぽちぽちーーー☆

おきまちあき様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

枕、不思議ですよね。
菊慈童のお話を踏まえた上での枕だとは思いますが、謎。

薬の酒、といえば養命酒しか思い浮かばないんですが、
あれ、立派に酔うんですよねー。

それと、マムシ酒とか。きゃー。

酔ってこそ酒、だったりするわたくし。
同じ量で同じ値段なら、度数が高い方がお得じゃない?っと友人に言って、思いっきり白い目で見られました。

菊慈童、あちこちの菊花展で、きゃっきゃ♪してそう。

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

へーえー。「竜馬が行く」で、そんな場面が。
さすが司馬遼太郎好き親子様。うふふ。あのお話、ほっこりしました。

>昔は「枕をまたいじゃダメ(`・ω・´)」って注意されたけど、
>今はあんまり聞かなくなりましたね^^

そうなんですよね。
枕をまたいだら、「めっ」って叱られましたわ。
掛け布団を踏むなとか、畳に布団、じゃないともう言わないですね。

いや、そもそも、慈童、なぜ王の枕をまたぐことが出来たのかね?っという腐る人向きの謎もあったり。

甘露、ありがとー♪ヽ(´▽`)/

これから夜が長いので、えんどれす晩酌。きゃっほーい♪
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つねまる

Author:つねまる
史跡をちょろ見しながら、景色を楽しむゆっくり旅。地味。

古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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