坂東武者の恐怖。お話上手な斎藤実盛 in富士川
こんにちは。
富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦い。

いずれの戦いでも、総大将の平維盛。
戦って、どんなんかなー?っと、富士川の戦いの前に、坂東の道案内、長井斎藤別当実盛に尋ねます。

「やや実盛、汝ほどの射手八箇国にいかほどあるぞ」
実盛が十三束(こぶし十三個分)の大矢を使うので、すごいなーっと思っていた維盛。
ところが実盛曰く
「実盛ほど射候ふ者は、八箇国に幾らも候ふ。
坂東に大矢と申す定の者の十五束に劣つて引くは候はず。
弓の強さもしたたかなる者五六人して張り候ふ。
かやうの精兵共が射候へば、鎧の二三両は容易う懸けて射通し候ふなり。
大名一人して五百騎に劣つて持つは候はず。」
実盛程度は坂東では大矢とは言わない。
力の強い者五~六人で張った強い弓を使う。
鎧の二つや三つは軽く射通しちゃうよ、。
そんな射手を、大名ならば五百騎以上連れている。だそうで。

坂東では、「馬に乗つて落つる道を知らず、悪所を馳せれど馬を倒さず」。
・・・。

何ですか、西ではこうだと?
実盛によると坂東では
「軍はまた、親も討たれよ子も討たれよ死ぬれば、乗り越え乗り越え戦ふ候ふ。」
合戦となれば親が討たれようと、子が討たれようと、死屍累々の山を乗り越えて戦うのだというのです。
まぁ怖い。
「西国の軍と申すは、すべてその儀候はず。
親討たれぬれば引き退き、仏事供養し忌み明けて寄せ、
子討たれぬればその憂へ嘆きとて寄せ候はず。」

「兵糧米尽きぬれば春は田作り秋は刈り収めて寄せ」

「夏は熱しと厭ひ」

「冬は寒しと嫌ひ候ふ。」

「東国の軍と申すはすべてそのやう候はず。」
そして、既に甲斐信濃の源氏等は地形を調べ、富士の裾野から搦手へも廻りこんでいるだろうと続けます。
実盛の坂東のお話に、維盛も周りの兵達もさぞかし恐ろしく思ったことでしょう。
「かやうに申せば、大将軍の御心を臆させ参らせんと申すとや思し召され候ふらん。その儀では候はず。
その故は、今度の軍に命生きて二度都へ参るべしとも存じ候はず。
但し軍は勢の多少にはより候はず、謀によるとこそ申し伝へて候へ。」
実盛は、皆を恐怖のどん底に突き落とすつもりではなく、今回の合戦で生き延び、再び都へ上ることができるとも思っていない、と述べ。
そして、軍は、兵の数の多少で決まるものではなく、謀略で決まると言われている、と結びます。
維盛・・・(T_T)
実盛の坂東武者のお話。

こうかてきめん。
維盛や平家軍の兵達には、源氏の兵は恐ろしいモノに見えたことでしょう。
結果。

水鳥の羽音に驚いて、平家軍は散り散りになり、大敗。
お話上手な、斎藤別当実盛でした。おしまい。
参考文献
新日本古典文学大系『平家物語 』(梶原正昭・山下宏明 校注 岩波書店)
いつも応援いただきありがとうございます。維盛達を恐怖のどん底に突き落とす程の斎藤別当実盛のお話。どんな語り口だったのでしょうねぇ。このお話上手なおっちゃん、木曽義仲と平維盛双方に深く関わっている人物です。



ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦い。

いずれの戦いでも、総大将の平維盛。
戦って、どんなんかなー?っと、富士川の戦いの前に、坂東の道案内、長井斎藤別当実盛に尋ねます。

「やや実盛、汝ほどの射手八箇国にいかほどあるぞ」
実盛が十三束(こぶし十三個分)の大矢を使うので、すごいなーっと思っていた維盛。
ところが実盛曰く
「実盛ほど射候ふ者は、八箇国に幾らも候ふ。
坂東に大矢と申す定の者の十五束に劣つて引くは候はず。
弓の強さもしたたかなる者五六人して張り候ふ。
かやうの精兵共が射候へば、鎧の二三両は容易う懸けて射通し候ふなり。
大名一人して五百騎に劣つて持つは候はず。」
実盛程度は坂東では大矢とは言わない。
力の強い者五~六人で張った強い弓を使う。
鎧の二つや三つは軽く射通しちゃうよ、。
そんな射手を、大名ならば五百騎以上連れている。だそうで。

坂東では、「馬に乗つて落つる道を知らず、悪所を馳せれど馬を倒さず」。
・・・。

何ですか、西ではこうだと?
実盛によると坂東では
「軍はまた、親も討たれよ子も討たれよ死ぬれば、乗り越え乗り越え戦ふ候ふ。」
合戦となれば親が討たれようと、子が討たれようと、死屍累々の山を乗り越えて戦うのだというのです。
まぁ怖い。
「西国の軍と申すは、すべてその儀候はず。
親討たれぬれば引き退き、仏事供養し忌み明けて寄せ、
子討たれぬればその憂へ嘆きとて寄せ候はず。」

「兵糧米尽きぬれば春は田作り秋は刈り収めて寄せ」

「夏は熱しと厭ひ」

「冬は寒しと嫌ひ候ふ。」

「東国の軍と申すはすべてそのやう候はず。」
そして、既に甲斐信濃の源氏等は地形を調べ、富士の裾野から搦手へも廻りこんでいるだろうと続けます。
実盛の坂東のお話に、維盛も周りの兵達もさぞかし恐ろしく思ったことでしょう。
「かやうに申せば、大将軍の御心を臆させ参らせんと申すとや思し召され候ふらん。その儀では候はず。
その故は、今度の軍に命生きて二度都へ参るべしとも存じ候はず。
但し軍は勢の多少にはより候はず、謀によるとこそ申し伝へて候へ。」
実盛は、皆を恐怖のどん底に突き落とすつもりではなく、今回の合戦で生き延び、再び都へ上ることができるとも思っていない、と述べ。
そして、軍は、兵の数の多少で決まるものではなく、謀略で決まると言われている、と結びます。

維盛・・・(T_T)
実盛の坂東武者のお話。

こうかてきめん。
維盛や平家軍の兵達には、源氏の兵は恐ろしいモノに見えたことでしょう。
結果。

水鳥の羽音に驚いて、平家軍は散り散りになり、大敗。
お話上手な、斎藤別当実盛でした。おしまい。
参考文献
新日本古典文学大系『平家物語 』(梶原正昭・山下宏明 校注 岩波書店)
いつも応援いただきありがとうございます。維盛達を恐怖のどん底に突き落とす程の斎藤別当実盛のお話。どんな語り口だったのでしょうねぇ。このお話上手なおっちゃん、木曽義仲と平維盛双方に深く関わっている人物です。



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