倶利伽羅峠の戦い異聞。『源平盛衰記』と落語で火牛の計

木曽義仲。
「平家物語」では、どわーっと戦って、どどどーっと都へ来て、ぷぎゃんっとイケズされ、さーっと立ち去ったイメージがどうしても払拭出来ない木曽義仲。
故郷の木曽、信濃での義仲は、きっと乳母子達と楽しく走り回った少年時代を過ごしたことでしょう。
また、養和の飢饉は義仲の拠点としていた地域にも及び、平家と同様に2年ほどの足止めを食らっており、都を目指し進軍する前後の足跡が、現地にはあちこちに残っている様子。
何よりも、義仲は、地元にとってヒーロー。
目下、木曽義仲達の足跡を追って記事にされてますのが、信濃の山城の第一人者のらんまるせんせ。
らんまる攻城戦記~兵どもが夢の跡~
http://ranmaru99.blog83.fc2.com/
何しろ土のお城を数百も巡るらんまるせんせですから、館跡など旧跡のレポートは専門的なのに、わかりやすく。
ブログ初期の頃よりご贔屓にしていただいておりまして、軽妙な語り口と解説付きの画像で、初心者にも優しいブログ様です。ぜひ。
愛されています、義仲主従。
さて。そんな木曽義仲と対峙するはめになった平家軍の総大将、平維盛。

従兄弟の経正は、道中、竹生島クルーズして神前で琵琶の演奏。

白龍が経正の袖に甘えて、これぞ瑞兆。
平家と源氏は、倶利伽羅峠の戦いへ。

地形を調べ、木曽義仲は準備万端。

偶然陣を敷いた場所が、源氏の氏神、八幡宮の領地。
右筆の覚明に書かせた願書を鏑矢と共に奉納。

八幡宮の神使、鳩が飛び翔る。これぞ瑞兆。
両軍共に、瑞兆あり。

結果は、平家の惨敗。
なぜでしょう。
今日は『源平盛衰記』を見てみましょう。
維盛くんの報告によれば。

ほほう。

只今、梅雨真っ盛り。

平家、大丈夫か。
かぎゅう、って、なんだー!

これだもぉー。
牛の角に松明をくくりつけ、平家軍へ突進。

これぞ「火牛の計」。

(養父神社の狛犬さん。ニホンオオカミです。)
『源平盛衰記』によれば、500頭の牛が突進し、平家軍7万余騎は大混乱。
義仲主従が図った通り、倶利伽羅峠の断崖から次々と谷底へ転落。

(もう一度言います。ニホンオオカミです。)
この倶利伽羅峠の戦いで、総大将の平維盛は追討軍10万の大半を失ってしまいました。
この中国の『史記』に登場する「火牛の計」を具現化したような作戦。
すごいぞ、義仲!
・・・突然ですが。

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり……」で始まる落語「源平盛衰記」。
木曽義仲の倶利伽羅谷の一戦(『火牛の計』)、頼朝と義経の再会、粟津の合戦、鵯越の戦い、壇ノ浦の扇の的等の源平合戦の様子をわかりやすく語ります。
「地噺」というもののひとつ。
一般的な落語のように物語にはなっておらず、歴史的事件を基に、時々脱線する。つまり地に返るので「地噺」。
10代目桂文治の十八番でした。
全部語ると一時間は軽くかかるため、ひとつの話をピックアップして演じるのが通常。
サゲは、扇を与一が射抜き、××が@*#!して、「おごる平家は久しからず」にかけてオチます。

さて、この「火牛の計」ですが。
残念ながら、『平家物語』に記述はなく、その異本である『源平盛衰記』に頼るお話で、松明をくくりつられた牛が敵に向かって突進するというのも現実的にどうか、と古来より疑問視されております。

義仲の倶利伽羅峠の戦いがあまりにも鮮やかであったので、脚色もしたくなるってもんでしょうね。
この後。
命からがら退却した平家軍を追う木曽義仲主従に、ひとつの悲しい事件が起こります。
いつも応援いただきありがとうございます。相手が木曽義仲であった事が既に不運なマタドール維盛。倶利伽羅峠の戦いの現地で、ファイヤーな牛の像を見たときには「すげー!義仲!」っと興奮しましたが、訪問時はまだ「フイルムカメラ」を使ってたので、落書きですみません。今はメルモモちゃん、という、ゆるキャラさんがいるようで。鼻血出るほどかわいいです。



ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
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