熊野古道で取り憑く、ダル。或はヒダル

こんにちは。


後鳥羽上皇の熊野御幸に同行した藤原定家。


『後鳥羽院熊野御幸記』に記されたのは、定家の踏んだり蹴ったりの珍道中。


途中から輿に乗ったものの

「こころな喪きごとく、さらになす方もなし」
「嶮岨の遠路、無力、きわめてすべなし」



急峻な山では、輿を水平に保つことは無理。

特に、熊野那智大社から本宮へ向かう大雲取、小雲取越え35キロの嶮しさは、

終日険岨を超す。心中は夢の如し。
いまだかくの如きの事に遇わず。雲トリ紫金峰は掌を立つが如し。
(略)前後を覚えず(略)この路の嶮難は大行路に過ぐ。


そして、肝心の日記すら

「くまなく記すあたわず」


定家、失神。

上皇の熊野御幸に供奉した定家ですから、一行には先達が付いていて、自身の家臣もいたというのにこの有り様。

下々の熊野詣はいかに難儀であったことでしょう。


定家が愚痴らなかった那智の滝から那智大社への石段でさえ、しんどかったの。

さて。

定家が「雲トリ紫金峰は掌を立つが如し」と記すほど急峻な山越である「大雲取越え、小雲取越え」。

ここは「死出の山路」とも呼ばれ、その道を歩いていると、「ダル」に取り憑かれたり、亡くなったはずの肉親や知人に出会ったりするという不思議な現象に遭遇することあり。

ダル?


これが、「ダル」に憑かれた状態。

急に脱力感に襲われ、意識が朦朧とし、歩くこともできなくなり。

これは険しい山道で餓死した無縁仏の亡霊(ダル)が山中をうろつき、通りすがりの人に取り憑くのだとか。



「ダル」「ダリ」「ヒダル」といわれ、全国各地に伝承が残る悪霊の一種、ダル。
特に熊野を含む紀伊半島で多く伝えられます。

熊野でダルの伝承が残るのは、大雲取の長谷の奥、小雲取の石堂峠、それに辞職峠や笊山峠の辺り。

いずれも嶮岨この上もない山中。


《ダルの傾向と対策》

ダルは、空腹のときに憑かれやすい。

ダルに憑かれたときは米を一粒でも食べるとダルが退きます(熊野辺の言い伝え)。

1。お弁当を食べるときは、一粒でいいから残しておきましょう。


これを口にすれば、たちまち元通り。


2。飯粒がないときは、手のひらに「米」という字を書いてそれを食べる真似をしましょう。


「米」と書きましょうね。緊張してるのもわかるけど。


熊野の生物学者の南方熊楠が体験を記しています。

「予、明治三十四年冬より二年半ばかり那智山麓におり、雲取をも歩いたが、いわゆるガキにとりつかれたことあり。

寒き日など行き疲れて急に脳貧血を起こすので、精神呆然として足進まず、一度は仰向けに倒れたが、幸いにも背に負うた大きな植物採集胴乱が枕となったので、岩で頭を砕く難を免れた。

それより後は里人の教えに従い、必ず握り飯と香の物を携え、その兆しある時は少し食うてその防ぎとした」(『民族』一巻一号)



3。窪地に注意。

ダルに取り憑かれる場所は、昔の人々が「ダルに憑かれる場所は山や硲でたいがい決まっている」と伝えるように、山中の窪地など、風通しの悪い場所。



山中には、落ち葉などの有機物が腐食して発生した二酸化炭素が滞留し濃度が濃くなる場所があります。

ここに入り込み、二酸化炭素を大量に吸い込むと、ダルに取り憑かれた状態と似た症状を示す「二酸化炭素中毒」になる可能性があり。

よって、窪地に近づかないようにしましょう。


4。食べ物必携。

低血糖の時も同じような症状になります。


おやつを忘れずに。



こうならないように気をつけましょうね。

ちなみに。


今夜は湿気が多くてだるいです。


参考文献
『熊野検定テキストブック』(編集・発行/田辺商工会議所)

いつも応援いただきありがとうございます。ダル或はヒダルという存在。大雲取、小雲取越え等の急峻な山越えの道端には無縁仏が点在。熊野那智大社からさらに上ると亡者が突く鐘があり。また、もののけ好きには、あの牛鬼の伝説も残る熊野古道。ぞわっとしつつ、わくわくもします。
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ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
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No title

こんにちは。
タイトルのダルとは何ぞや?
と読み進めてわかりました。
窪地は近づかないようにします。
お腹すくと判断も鈍るし、ダメですよね。
熊野に行くときはおやつを忘れないようにします。
しるこサンドはよく聞くのですが、食べたことないんで、今度食べてみます。
ぐんぐんグルト好きですよ(*´ω`*)

No title

ダルと言えばそらもうダルビッシュしか思い浮かばないやきう脳です、こんばんは。

これは上手いこと言ってますねぇ。
行動食は大事です、ハイ。
低血糖になりやすいので飴ちゃんとチョコレートは必需品。

喩え上手いわと思えど妖怪は居てほしい派。

こんにちは

こんにちは
熊野古道、一度は行ってみたい場所です。

ダルと呼ばれているんですね。

山道は、窪地は危険な場所なので、そのような教えも込められているのでしょうか。

楽しく拝見させていただきました。
応援ぽち!

宙海様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

ダルに取り憑かれたかの如く、お腹をすかせて、生まぐろどーん!と叫んでいる那智勝浦のドライブ。
せっかく食べるのにハズレは嫌なので、贔屓の店しか行かないんです。なので、昼食を食べそびれることが多くて。

熊野の旅におやつは必携。海辺で食べる甘いものは最高ですねー。

しるこサンドは名古屋人の定番おやつ。
牛乳と一緒に食べると、おいしいですよー。

お。ぐんぐんグルトにお気づきいただきまして~(≧∇≦)
これ、ついつい買ってしまうんですよねぇ。私も好きぃ♪

ダル、ヒダルは、今市子さんの「百鬼夜行抄」で知りましたの。おほほ。

さかした様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

んふふふ。さかした様、好きぃ。はい、こんばんは。

妖怪話には、説話的なものが多いですね。
このダルさんは、ほんと、うまいこと言ってます。
確かに熊野の山々は何かがいてもおかしくない雰囲気ですし。

どちらかというと、生身の人間とクマさんの方が、怖いかな。
熊野はツキノワグマがお散歩しているようで。

私も妖怪はいてほしい派。少し間抜けで憎めないものがいっぱい。

低血糖、お気をつけあそばして。
しゅーんっと意識が飛ぶようですもの。

豊与様

えーっと、はじめまして。お気に召していただけたなら幸いです。またお越しくださいませ。

No title

私の場合のダルは
トレランで体力を使いきった頃
目の前にチカチカと星が沢山出てくるので
あっと思って行動食を食べます(笑)
違うか・・・

背中がぞわぞわしました・・・。

こんばんは~!
リアルでは夏休み前のテスト祭りを練っている今日この頃です。

今年の秋に熊野古道巡りを企画していたので
今回の記事は本当に勉強になりました。
この間「夏越の祓」をしたのですが、
記事を読むと何だかそれでもぞわぞわしてきました。
ダルに合わぬように食べ物と数珠と、
万全の準備で行きます。
ご飯は腐りやすいので干し梅とかでも大丈夫でしょうか・・・。
さすがに干し飯とか売ってないですよね・・・。

ダルは、「日だる神」ともいうと聞きましたが、
科学的には恐らく高所での緊張感と疲れからくるのだろうとは思うのです。
が、科学ではない部分が世の中にはあるのもあるので
十分気をつけなきゃと思いました。

ええと、以前のコメのですが
元長州藩の明治政府の廃仏毀釈。
元は同じルーツの方々が多いせいか、
あそこまで過激になった理由も何となくはわかるのです。
概して、山登り気質の我々は、
限界点を超えたり、今までよりもいいものがあれば
ぽんと今までのルートを捨てて別の道を歩むのです。
その時には今まで信じていた信条・大切なものすら
全てを捨てて世界へ飛び出す。
だから日本一の移民県でもあったのだろうと思います。
ある意味冷淡とも冷めやすいとも言われますが、
・・・そうでもしなければ大内・尼子に限らず、
外部や中央の2大勢力の狭間にあることが多かった我々は
生き残れなかったのではないかと思います。
なので、大切にしていたものをぱんと切り替える
その潔さは理解はできるのです。
・・・もうちょい考えてほしかったなあと思いますが。

それと安芸門徒はわりに神仏混合を早い頃から止めていて、
江戸中期には
「海の方は雑宗(浄土真宗以外の教え)で未だに混合していてまったくもう。」
という文献が残っているのです。
なのであんまり廃仏毀釈で壊した話は聞かないんで、
他所で話を聞いて時々落ち込みます。

因みに初の教え子が今年20歳なので
まあそこらまで小学生並みのお子様扱いを
ついついしてしまいます・・・・。頭なでなでとか・・・。
1周りも変わらんのですがね・・・・。

長々と失礼いたしました。
那智大社の続きを楽しみにまっております。

No title

つねまるさん、おばんですばーい♪

輿に乗ったら、熊野に行ったことにはならないでしょうに。

輿を担いで、さらにダルにまとわり付かれたら、本当に死んじゃいますね。

つねまるさんの携行品は、よく考えてあります☆
ただ、百人パワーの素「ライスジュース」がないということは、
もう、すでに使用済みなのかな。

だるだる~

なんだか体がだるい~
憑かれた疲れたからなのか~

なんというか季節の変わり目と熊野詣ではダルに用心ですね^^

しるこサンド~こっちに売ってない~美味しそう^^
ぽちぽちぽちーーー☆

ミント様、トロロヅキ様、piglet01様、時乃★栞様

コメントありがとうございます。
すみません、要領が悪くて深夜になりました。
改めて後刻お返事申し上げます。

No title

こんばんは。

ダル、ヒダル
初めて聞きました。
多くの人が行き倒れになった所だから、そういう話もむべなるかな、って納得してしまう。
つねまるさんは大丈夫だったのね?
それにしても熊野古道、奥が深いですね。
昔だと携行食も飲み物も粗末な物だったろうから、ダルも憑りつきやすかったのかな。

ミント様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

う、うおおお。それはなんと切羽詰まった状態でー。
そうそう、ミント様のトレラン記事を拝見していて、行動食っていうのがあるんだ、ほおおおーっと思ってー。

補給しないとやばーい!ってすごいなー。

私もなるのですー。真夏にお社巡りしてしまってー、おうちに帰ってシャワーした後とかに、やばーい!水分!しゅわーっとしないとやばーい!って・・・。

嗚呼、全然違うぞ。

トロロヅキ様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

いえーい。テスト祭り♪
トロロヅキ先生、テスト範囲は教科書見開き二頁だけにしてくださーい。

熊野古道におでかけなのですね♪
9月からわかやま国体があるので、今年の和歌山は盛り上がってます。
どんなところを廻られるのかなー。
トロロヅキ弁で語られる熊野が楽しみです。

和歌山の南高梅の梅干し、美味しいですよ。
一つずつパックになったのがあるので、ぜひ携帯食になさって(^^)

干し飯・・・はないけど、干し魚なら売るほどあります。よ。

>ダルは、「日だる神」ともいうと聞きましたが、

さすがです。嬉しいな。
ダルに憑かれた状態を「ヒダルい」といい、ダルが神様になっている地域もあるようですね。
神としたことで、より敬い、気を付ける意味合いが強くなったのかな。
実用的な説話のように思います。

>元長州藩の明治政府の廃仏毀釈。

トロロヅキ様とお話して、仲良しさんにしていただく中で、絶対不快にさせてしまうことがあるだろうなーと不安はありましたの。

どうしてもぶち当たる、廃仏毀釈。
一部の国学者と阿呆な下っ端と鬱憤の溜まっていた民衆の暴走とは頭でわかっていても、基礎の石すら残らないお寺を目の前にすると、「★○※■◎(自主規制)」っとなるもので。

そうかぁ。そんな背景があったのかぁ。

その土地の人でないとわからない事をトロロヅキ様が教えてくれるので、ほんとに、謎が解けるというか、府に落ちたというか。

・・・私も捨てられたら悲しいぞーっと。

門徒、という存在に教科書ではなく実際に色々な形で触れたのは、昨年の官兵衛巡りが初めてでした。
ここでもやはり、現地で触れるものと本で読んだものとの熱さの違いというか、その地域にはこうなる地盤があって、結果、こうなった、と、論文の起承転結よりももっと明解な回答があるものなのだな、と改めて現地調査の楽しさを思い知りました。

隆景おじさまと秀包様と広家おじ様が好きぃー(≧∇≦)なミーハー気分ではわからない、奥深いお話をありがとうございました。

トロロヅキ先生、頭を撫でるの、よしてー。
「まぁまぁ、おっきくなって」って、社会人になだてから幼稚園の先生に言われたの、なかなかの破壊力がありましたことよー。

こちらこそ、これからも、いろいろ教えてくださいね。

piglet01様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

いやぁ、でも、普段ほとんど歩かない定家が熊野まで行くんですから、歩けという方が無理なお話で。
体調を崩す前はちゃんと馬で先行してますし、帰りはめっちゃ早いし勘弁してやってください。

ライスジュースなんて口にしたら、そこから一歩も動けなくなりまする。
20年間、無事故無違反のゴールドですもの。おほほほほ。

我慢して我慢して、お宿で口にする麦炭酸のうまいことー!
こほん。

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。細かく見ていただいて、ありがたいです。

だるい~?それはー、頑張ってるからでしょー。
ちょっと天候がしんどい季節ですね。先月の暑さも、今のじめじめも。

しるこサンド、素朴なお菓子なのです。
名古屋といえばあんこ、誇張し過ぎよー!って思っていたら、手元にこれがあって納得、しちゃいましたわ。おほほほ。

万見仙千代様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

お社巡りの楽しみは地域のお店でゲットする和菓子。
那智といえば那智黒。串本のうすかわ饅頭。
和歌山といえば、めはりずし。熊野はさんま寿司。

んふふ。どこで食べようかなー?っと、めはりずしとうすかわ饅頭を詰めたバックを手にうろつく熊野路です。ダルさんもびっくり。

でも、亡者のひとつ鐘をとーちゃんやかーちゃんもついたのかなー?って考えると、会いたいなぁとも思ったり。
両親共に旅行と海が大好きでしたの。

熊野古道の伊勢路側は、ツキノワグマさんが出るので熊鈴が必携なのです。
てっきりクマさんは山にいるものと思い込んでいたので、海辺の古道で「クマ出没情報」を見るとは。

昔の人は、急峻な山越えに苦心し、クマさんの恐怖に怯え、ほんとに大変な道のりであったろうと思います。

そんな危険な所にわざわざ来たのですから、熊野には何かがあるのかなー。なんだろうなー。

熊野はやっぱり温泉と魚と海だなー、と、歩く煩悩の私でした。
プロフィール

つねまる

Author:つねまる
史跡をちょろ見しながら、景色を楽しむゆっくり旅。地味。

古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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