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能楽の鬼。女の鬼。面から感じる鬼になった悲しみと怒り。

こんにちは。

今日は、女の鬼のお話。うふふ。


鬼と言われたら、まず思い浮かぶのはこの面、般若。

このイラストは「M/Y/D/S イラスト素材百科」の「M/Y/D/S」様より利用規約に基づきお借りしています。イラストの転載はできません。


「般若」とは、仏教用語では「知慧」を表し、言い換えると「祈りによって悟りを開く」という意味合いの言葉。

面に「般若」の名がついたのは、祈られて悟るからという説と、「般若坊」が作ったからという説があります。


般若の上の部分は苦しみや悲しみの表情。
そして下の部分は怒りの表情。
角が生えるのは女の鬼だけ。


さらに、この「般若」には、「赤般若」「白般若」「黒般若」があります。

「赤般若」
怒りが最も前面に出た面。「道成寺」専用。
「赤頭(あかがしら)」の小書(特殊演出)がつくと、「真蛇(しんじゃ)」や「泥蛇(でいじゃ)」という、悲しみや怒りよりも、強さを強調した面を用います。

安珍清姫物語でご存じの方も多いと思われますが、道成寺。

能楽では、主役の女(シテ)とお話の内容に変更があります。

自分の家にたまたま一泊した山伏を「汝の夫よ」と父が言った冗談を純粋に信じた少女(シテ)が、しばらく後に再び現れた山伏に「われをばいつまでかやうに捨て置き給ふぞ。このたびは連れて奥へお下りあれ」と迫ります。
山伏にとっては寝耳に水。適当にその場を取り繕った後、夜に紛れて逃げ出します。



裏切られたと思った娘は歎き悲しみのあまり、毒蛇に姿を変じて日高川を泳ぎ渡り、山伏を追いかけます。山伏は道成寺にまで逃げ、寺の鐘を下げその中に隠してもらいますが、それに気づいた娘は、「竜頭をくはへ。七纏ひ纏ひ」炎を吐いて、鐘を湯に変え、山伏ともども消し去ってしまいました。

『道成寺縁起絵巻』

能『道成寺』では、主人公である女性の設定が、もともとの伝承にあった「情欲の為に男を追いかける寡婦」から、「冗談を真に受けてしまうほど純真な少女」と変わっています。

純真なために、適当にあしらった(ように見える)男への思慕は憎しみへと変わる。その事が物語の背景に哀しみを持たせ、深みを与えています。


「白般若」
貴人としての品性を残した面。「葵上」専用。

「黒般若」
安達原の鬼女の強さを表す面。「安達原」専用。


以上が「般若」。

女の鬼の面はまだあります。


「生成(なまなり)」・「橋姫(はしひめ)」

「鉄輪(かなわ)」専用。
夫に捨てられた女が生霊となって夫と後妻をとり殺そうとするお話。



「鉄輪」を逆さにかぶり、鉄輪の足に火を灯した蝋燭を立て、顔を丹(赤い塗料)に塗り、赤い着物を着て、「いでいで命をとらん」と後妻(陰陽師が用意した人形を錯覚)の髪を手に絡ませて打杖で散々に打ち据えます。

まだ人間であり、鬼になりかかった状態なので「生成」という面です。「橋姫」も同じ。
般若に比べると、はしたない醜さを額とこめかみに乱れた髪の毛を描いて表現し、お顔全体も品が少々劣っているように見えます。


さて。

「紅葉狩」という曲にも、鬼の女が出てきます。戸隠の鬼女「紅葉」の伝説。


かねてよりお世話になっている信州の強者・らんまるせんせが、只今、戸隠紅葉伝説の現地を探検中です。→→→→
らんまる攻城戦記~兵どもが夢の跡~

現場でしか味わえない戸隠の景色や史跡がいっぱい見ることができます。らんまるせんせの解説付きです。ぜひ。



鬼の女、なのに、「紅葉狩」のシテ・紅葉には、般若の面は通常は用いません。
「しかみ」という男の面を用います。
顔をしかめる、の、しかみ。角は生えていません。他には「土蜘蛛」のシテの土蜘蛛、「大江山」の鬼などに用います。



それは、女の姿はしていても苦しみや悲しみ、怒りが紅葉の内面にはない。即ち、ただの化け物としての鬼、という位置づけなのです。

例外として「鬼揃(おにぞろい)」の小書付の場合に「般若」を用います。
これは明治に始まった小書で、広い会場(万博など)で上演するのにシテが一人じゃ見栄えがしないからと作られた演出方法です。
前半の美人さんと後半の鬼が、シテの他にわらわらわらと大勢出てきます。

そこで困るのが面の手配。

「しかみ」は一度に何人も用いる面ではなく用意し難いのですが、「般若」ならば各家に複数伝わるため、「鬼」を「鬼女」に変更して「般若」を用いる事が出来るようにしたのです。

以上、女の鬼のご紹介でした。





皆様の応援のおかげで更新頑張れます。女を鬼にしたのは、さて、何でしょうねぇー?んねぇー?
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ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。


おまけ

頑張って描いた般若です。
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非公開コメント

へっぽこぴーのらんまるです

貴女様の教養溢れる記事の中でご紹介までしていただき、恐悦至極でござりまするw

般若とシカミの区別はどうしてなんだろう?というド素人でしたが、よくわかりました。
土のモコモコは何となく解説できるのですが、能や狂言などについては耳から詰め込んでも、滞留時間無しで流れ出てしまいます・・(汗)
「餅は餅屋に任せろ!」って事ですね(笑)

進化していく絵にも期待しております。では。

へっぽこぴーのらんまるせんせ

こんばんは。ご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

しかみ、をご存じなんて、さすがらんまるせんせ。またまたご謙遜。能あるクーさんは爪を隠す、ですねー。ますますせんせの記事が楽しみです。

能楽堂の虫干しのお手伝いのときに師匠から般若の面を見せてもらい、これ、なんだかわかるか?と聞かれ。

「桃太郎侍!」

と答えて、ド叱られた素人です。ひとぉーつ、人の世の生き血をすすりぃ…。

No title

こんばんは~♪
能の「安達ケ原」は舞台を見た記憶があるのですが、内容は綺麗に忘れました(゚∀゚ ;)タラー
歩き方にすごく特徴がありますよね~
ほかの般若は全然知らなかったです。
道成寺といったら、舞踊の娘道成寺しか知りません^^

つねまるさんはお詳しいですねσ(゚ー^*)

No title

昔から納得いきません。
何といっても、安珍どのが気の毒すぎます。
清姫、そこまでするか!
らんまるさまの鬼女伝説紀行、とっても面白かった。
何者かが住まっているような現地の様子、その場にいるともっとビンビン感じられそう。

まり姫様

こんばんは。ご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

道成寺の演目は舞踊も歌舞伎も、大きな鐘と、蛇になり鬼になるほどの執心がテーマですよね。 いろいろな表現と解釈があるのが、古典に限らず芸能の面白さと思ってるです。

能楽では、たいへん重要な曲でして。能楽師の卒業論文といわれるほど。

シテが舞う「乱拍子」。小鼓とシテだけの掛け合いが数十分続きます。
小鼓のかけ声と、ぷ、ぽー、という音。シテの足拍子。それだけが舞台と見所に響きます。沈黙が数十秒続くことも。ラジオなら放送事故です。

これは鐘に近づく隙を狙う様子を表しています。

機会があれば何をおいても見てほしい曲です。

万見仙千代様

こんばんは。ご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

きゃ。落ち着かれてくださいまし。

能楽では、本人となんの話もしてないのに勝手に「あの山伏がお前の旦那になるひとじゃー」と言った父親が悪いと思ったり。

らんまる様の現地調査は、現地でしかわからない空気を教えてくださいますよね。あのむせかえるような緑が、秋にはどんな色になるのか想像しますと、紅葉ちゃんの色白のお顔がまるで鬼にも見える赤に染まったのかしら、と、とても趣深いです。

道成寺に行くと、住職様の「道成寺縁起絵巻」のお話が聞けます。
名物になっておりますので、機会があればぜひ。

お怒りになってしまわぬよう、どきどきしつつおすすめします。

(@@)

般若に白、赤、黒があるって初耳^^

自分も白般若は「桃の旦那」のイメージが強烈(爆

山伏・・・・被害者じゃね?

一番下の般若は、怒った母ちゃん・・・(._+ )☆\(-.-メ)オイオイ

ぽちぽちぽち

時乃★栞様

こんばんは。ご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

一口に般若といっても、本当にいろんなお顔があって面白いです。
でも、ひとぉーつ、の、桃太郎侍なんですよねー。ヒデキ見ても未だにあの姿が…。

いつもいつもぽちぽちぽち、ありがとうございます。

こんばんは~

以前おっしゃられていた般若の事ってこういうことだったのですね。
男の鬼に角がない事もわかりました。

よく考えると神楽の場合、「紅葉狩り」のように「鬼」が「姫」であることが多く、般若面なのはそのためかなと思いました。

あと、「道成寺」も神楽にあります。元々能楽の方が先なので、話をぱくっているんですが、神楽だと最後に鐘が開いて2人は天に昇り、僧侶という戒律から解かれた僧と夫婦になりました。夫婦仲良くあなめでたしとなるのは「神楽」という目出度いものだからだろなあと思います。

また能のお話を楽しみしていますね!

トロロヅキ様

こんばんは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

遅くなりまして…。fc2アプリ更新したら、画像が巨大化してパニックで、般若になってました。

鐘が割れて幸せになるなんて、予想外の展開ですねー。
お神楽は、現地で鑑賞するとなんとも言えない迫力があって好きです。石見神楽、面白かったなあ。

明治の神楽様式の改正の神職演舞禁止令・神懸り禁止令により神能を民間人が務めるようになった際に激しく速いテンポになったとか、とかとか…?

説明書をみて、「明治」「改正」の文字に、ちらっとイラッとしたりして…(T_T)

能楽には、巫女が神に捧げる舞としての神楽が出てきます。

能楽の舞事には、早舞、楽、男舞、など様々なものがありますが、「神楽」は初めは静かなお笛ですが、途中から神がかりになって神舞という神様が舞う速いテンポの位に変わります。

能楽「巻絹」なんて、神様が憑依した巫女が神楽を舞ううちに、神憑ってしまって、鳥のように飛んだり跳ねたり激しく動き始め、やがて神様は「ほな、天に昇るさかい」と言い、御幣をぽーいっと放り投げる所作で神様の昇天を表し、ようやく巫女が正気に戻るんですよー。

お笛はこんなん。

おひゃーらりーいやーーららー。りーいやあらあらあらあらあひゃーいとー。

呪文じゃないよー。
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つねまる

Author:つねまる
史跡をちょろ見しながら、景色を楽しむゆっくり旅。地味。

古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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