おんな城主直虎・第3回。能「巴」汝は女なり。義仲との別れ

こんにちは。

「おんな城主直虎」第3回冒頭、能「巴」つづき。

曲の情緒を味わうのには、謡の原文(緑色の文字)をたどっていただけたらと存じます。



近江国粟津ヶ原。


小さな祠の前で泣いていた若い女は、実は巴の幽霊。

木曽出身の僧達が弔いのお経をあげていると


「落花(らっか)空(むな)しきを知る。
流水心無うして自づから。澄める心はたらちねの」


と謡いながら、長刀を手にした巴の幽霊が現れます。


巴が語るのは、ありし日の木曽義仲の姿。


治承4年(1180)。以仁王の下した平氏追討の令旨により、挙兵した木曽義仲。


地謡「さても義仲の。
信濃を出でさせ給ひしは、五万余騎の御勢くつばみを並べ攻め上る。
砺波山(となみやま)や倶利伽羅、志保の合戦に於いても。
分捕高名(ぶんどりこうみょう)のその数。
誰に面を越され、誰に劣る振舞の。
なき世語(よがたり)に、名ををし思ふ心かな」




出立時は五万余騎の大軍。諸々の合戦で勝利し都へ入った義仲。


シテ「されども時刻の到来」

地謡「運つき弓の引く方も、渚に寄する粟津野の。
草の露霜と消え給ふ。

所はここぞお僧たち。
同所の人なれば、順縁に弔はせ給へや。



しかし、時の運は残酷。
運尽き果てた義仲は戦に敗れ、琵琶湖湖畔の粟津ヶ原のこの場所(女が泣いていた祠)で、草の露と消えたのです。

僧よ、同じ木曽の出身なのだから、懇ろに弔って下さい。


そう願う巴。いよいよ義仲の最期の戦いを語り始めます。


地謡「さてこの原の合戦にて、討たれ給ひし義仲の。
最後を語りおはしませ」

シテ「頃は睦月の空なれば」

地謡「雪はむら消えに残るを。
ただ通ひ路と汀(みぎわ)をさして。
駒をしるべに落ち給ふが。

薄氷(うすごおり)の深田(ふかた)に駆け込み、
弓手(ゆんで)も馬手(めて)も、鐙(あぶみ)は沈んで。
下り立たん便りもなくて。
手綱にすがって鞭を打てども。
退く方も渚の浜なり、前後を忘じて控へ給へり。
こはいかに浅ましや。」



義仲の乗った馬が薄氷を踏み破り、両足を沼田に取られ絶体絶命。

なんてこったー!っと、巴は駆け寄りますが、

義仲は重傷。



地謡「かかりし所にみづから、駆け寄せて見奉れば。
重手(おもで)は負ひ給ひぬ、乗替に召させ参らせ。
この松原に御供し。
はや御自害候へ。巴も供と申せば。」



重傷を負った義仲に自害を勧め、私も供をすると言う巴。
しかし、義仲はそれを許しません。


地謡「その時義仲の仰せには。

汝は女なり。忍ぶ便りもあるべし。
是なる守(まもり)小袖を。木曽に届けよこの旨を。
背かば主従、三世の契り絶え果て。永く不興とのたまへば。

巴はともかくも、涙にむせぶばかりなり」




義仲の命は、生き延びて形見の刀と小袖を木曽へ届けよ、と。


かくて巴は義仲の前を辞し、


向かってくる大勢の敵に長刀で


ひとり、戦います。

巴の奮戦
http://rekitabi4.blog.fc2.com/blog-entry-1174.html


見事敵を追い払った巴。

されど今はこれまで、と、

義仲の元へ戻った巴が目にしたものは


自害した義仲の姿。

巴の手から音を立てて落ちる長刀。


シテ「今はこれまでなりと」

地謡「立ち帰り我が君を。見奉ればいたはしや。
はや御自害候ひて。
この松が根に伏し給ひ、御枕のほどに御小袖。
肌の守りを置き給ふを。

巴泣く泣く給はりて。死骸に御暇申しつつ。
行けども悲しや行きやらぬ。君の名残をいかにせん。
とは思へどもくれぐれの。御遺言の悲しさに。
粟津の、汀に立ち寄り。
上帯切り物の具、心静かに脱ぎ置き。
梨子打烏帽子同じく。かしこに脱ぎ捨て。」





ここで、シテは自ら烏帽子の紐をほどき、ほろり、と落とします。


指先に残る紐の端が、印象的な場面です。


地謡「御小袖を引きかづき。
その際までの佩添(はきぞえ)の。小太刀を衣に引き隠し。

所はここぞ近江なる。
信楽(しがらき)笠を木曽の里に。
涙と巴はただ一人、落ち行きし後ろめたさの、
執心を弔ひてたび給へ、執心を弔ひてたび給へ」




義仲の形見の小太刀と小袖を胸に、巴はひとり、木曽へ落ちたのでした。

最期の供を許されなかった執心をどうか弔ってください、と言い残し、巴の幽霊は姿を消し、舞台は終わります。


参考文献

観世流大成版『巴』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)


いつも応援いただきありがとうございます。
木曽義仲の乳兄弟で最期まで側にいた中原兼遠の子・今井兼平と巴。能「兼平」では、壮絶な兼平の最期が描かれます。供が許されなかった巴の悲しみを勇ましい姿を挿入することでさらに強く印象付ける能「巴」。素人でも情景を表しやすい曲ですが、名手の方の舞台はひとつひとつの型と謡が心に痛いほど突き刺さってきます。

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No title

こんばんは~

木曽義仲が好きなので、巴との別れのシーンは胸に迫るものがあります^^

今川家が出るたびに能か蹴鞠をやってないかとガン見してます^^

ぽちぽちぽちーーー☆彡

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

今週の今川家のおもてなしは、瀬名の謎ダンスでしたね。

どったんばったん、どったんばったん。

あれは、いったい何だったのでしょう。

No title

天晴れよかろう敵がなのところなんですね。
なるほどφ(`д´)メモメモ...

義仲くん人気者なんだなぁと昨日今日のコメントを読みながら思いました。
某所に義仲を大河にと掲げていまして、でも無理だよなぁと思ってたけど直虎見てたらイケるかもしれないとちょっと思うようになったw

真田丸がインパクトあり過ぎのせいなのか直虎人気はイマイチすな。
わたしはOPだけでもおもしろいと思うんですけどね。入院中も欠かさず見てました。

m(__)m

\(^o^)/ 今晩は。

能・・・住吉大社セミナーで、能のさわりを拝見してきました。

あの・・・スローモーさは、普段の特にイラチの麻呂にはある意味新鮮でした。

大阪城の真夏の薪能ぐらいしか見たことがありませんが、今年行けたら行こうかなと。

いやいや、やっぱり地元の狛犬GOが最優先です。

さかした様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

そうなんです。義仲くん、人気者です。

全国的にどうかと言われる人物でも、本人に魅力があれば一年いけるのかな?と思いますが、最期が悲しいので複雑な気持ちです。

直虎でいけるなら、義仲は、もっといける。

真田丸は玄人受けしたというか、ほんとに好評でしたね。
どちらかというと、途中でついていけないマニアックなお話で、ごほん。

なんたって一年も続くので、まずはドラマを楽しまないともったいない気がします。

と言いつつ、ぼーっとしてたので、この週末やっとじっくり見ました。

minekazeya無責任男様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

おおー。それは本格的なものですねー。

ひとつの言葉に節回しがつくので、のばしたり上げたり下げたりで、ながーくなってますね。

謡を覚える時は早口言葉でぶつぶつ言います。

大阪城の真夏の薪能、案外いい曲が上演されてますね。
行きたいですが、あまりに暑いので足が遠のいてます。こほ。

狛犬さん達がお待ちかねなので、そちらが先ですよねー♪

私も狛ちゃんに会いにお出かけしなくちゃ。

と言いつつ、こたつでまんまるです。
でぶ症です。おほほほほほ。

こんばんは

義仲公、粟津ヶ原のこの場所で討たれたんですね。
無念だったでしょうねぇ。
行ってみたいものだし、芭蕉の 「木曽殿と背中合わせの寒さかな」 の句も大好きです。
昔から、義仲公の生き様が好きだった人がいたというだけでも、嬉しくなります。

万見仙千代様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

今は滋賀県の中心地に程近く、町中のお寺になっていますが、義仲寺を訪れると、兼平、巴、義仲達の最期を思い、とても悲しくなります。

当時は、鄙から出てきた暴れん坊の世間知らず達がいなくなってよかったよかった、な感じはあったでしょうね。

それが平家物語によって、見直す機会が出来たのかなぁと思います。

義仲寺は、義仲よりも芭蕉が前面に出すぎていて、ちょっと遠慮してほしいところがなきにしもあらずでして。

うーん、すみません。

ほんと、びみょーなおとめごころ、なんです。
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古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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