能「翁」の面(おもて)は、顎が外れた

こんにちは。

とうとうたらりたらりらぁーっと不思議な言葉が並ぶ能「翁」。


さて、今日は面(おもて)の話。


【顎、はずれました】


真田丸第27回「不信」。


使用された面は、金春家に伝わる300年前の「天下一河内作の小面」。

http://ameblo.jp/yamaitsunao/entry-12178834390.html


とても美しい女性の面(おもて)です。


これは狂言の面。


(クラゲではござらん。下のは、あごひげです)

上記ふたつの面(おもて)のように、通常はひとつになってます。

が、翁専用に用いる白式尉(じょう)や黒式尉は、


顎が外れています。(・・・ほんとだもん)

ぽんぽん眉 ぼうぼう眉、と、アゴヒゲがある他に、

「切顎」といって、下顎が切り離されている点が大きな特徴。


(うーむ。へたぴー。)

上顎と下顎は紐で結ばれていますが、このように上下が分かれているのは、能「翁」で用いる翁の面のみ。

※特別演出(小書/こがき)の際に用いる父尉と延命冠者も切顎。


前記事で、能「翁」においては、面(おもて)そのものをご神体とする、と述べましたが、神社でも翁の面をご神体としているところもあります。

また、「尉(じょう)」とは、おじいちゃんのことを言いますが、おじいちゃんも千差万別。


ほんとは神様(『高砂』など)

若い女の人に惚れてストーカー(『恋重荷』)←すんごくねちこい


など、品格あるおじいちゃまから、庶民のじーちゃんまでいろいろいます。

そのなかで、能「翁」のおじいちゃんは、とても幸せな、うひゃっと笑顔。


京都府綾部市の阿須須岐神社(あすすきじんじゃ)の尉の面です

何だか幸せになりそうなお顔でしょ?

恐らく、ぼうぼう眉とお髭は欠損しているのかと思いますが、実際の翁の面の趣はあります。


【見えないので、目印を】



面(おもて)の内側。

これは狂言面ですが、おめめ全体があいています。

能「翁」の面も、同様。これも、翁面の特徴です。


ところが、ですな。

通常の面は、黒目のとこしかあいていません。

小指の先ほどの穴から、何が見えるか。


見えません。



ストローから覗くが如き、視界です。


だから、能舞台には、柱があります。



(福知山市一宮神社の能舞台)


能の型では柱を目指して歩みを進め、決められたポイントで何かの所作をすることの繰り返し。

よって、行き先を定めるのに、柱が必要。

各柱には、名前まで付いています。


一番たくさん目指すのは、目付柱(スミ柱)。

この柱の付近を「スミ」と呼び、必ず左足で止まるとか、スミ取りという型をするとか、ここだけ舞台の板が薄れるほど多く立ち止まります。

「シテ柱」は橋掛かりから入ってきたシテが曲がるとこ。
「笛柱」はこの横に能管(笛)の先生が着座しており、
「ワキ柱」はこの横にワキ方が着座します。


能「竹生島」後シテの龍神。と、ワキの勅使。

プロの先生は歩幅や足の向きを体が覚えていますから、それほど柱は重要ではないそうですが、素人にはこれがないとどこへ行ったらいいのやら。

観賞する側からしたら邪魔な柱ですが、客席と舞台を区切る働きと共に、演じる側にはないと困るもの、それが、能舞台の柱。


【上向け、上!】



再び、面(おもて)の内側。

口があいているのは、窒息するから。

じゃなくて、無論、声がこもらないためなのと、

通気孔の役目。


演能を終え、幕に入った途端、先生が

「上向け、上!!」

と叫びます。それは、


面の内側についた水分を目や口の穴からお外に出さないため。

面を外した後のお顔は、湯上がりほこほこ。

通気孔があってもこれですから、もしなかったらえらいことに。



謡も違えば、面(おもて)も違う。

そんな能「翁」、おすすめです。


面(おもて)のいろいろは、下記をご覧ください

公益社団法人能楽協会
http://www.nohgaku.or.jp/encyclopedia/whats/omote.html

国立能楽堂の面なので、大変よろしゅうございます。


いつも応援いただきありがとうございます。能面は舞台に用いるものでも数百年前のものが多く、大変大切なものです。面をかけると、お先真っ暗というか、一寸先は闇。これに重い装束を付けるので、ほんとに「体で覚え」ていないと身動き出来ないです。どんなにやってもやり過ぎではないのが、お稽古。素人はひとつの曲を仕上げるのに半年以上かけて、何度も何度も繰り返して体で覚えるしかありません。
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いつもありがとうございます。
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おはようございます

お能の面、仕組みや裏までは見えませんので、
ご説明で勉強になりました。

以前、趣味で謡曲をされている人から、
「能」の本を貰ったのですが、どこかに紛れてしまった。

国立能楽堂で発表会があって見に行った時に、
つねまるさんの知識があるとよかったです。
衣装やお面などはじっくり見ましたが、
ただただ見るだけで、もったいなかったと。

今後は、何かの機会があればもっと真剣に見ようと思います。


No title

いきなり変なことを言ってごめんなさい。

たぶんドラマかマンガだったかと思いますが、面の裏に毒を塗って暗殺したとか、面に呪いをかけて顔からはずれなくしたなんて場面があって、今も強烈に覚えています。

特に面が顔にくっついて離れないという場面はいつまでも恐怖でした。
でも実際にはこんなこと、なかったですよね?

それにしてもあんな小さな穴しか開いていないなんて、大変ですねえ。
それから汗。アレルギー起こしたり、面が汗の塩分でダメになったりしないものでしょうか?

若い頃はなんでも見たくて知識もないまま見ていました(今でもそうですが)。
そのころ一番好きだったのは、橋掛かりから出てくるときと引っ込むときでした。なにしろセリフが全然わからないので舞台は神経が疲れてしまい、登場で「ワクワク」、退出で「やれやれ」という情けない観客でした。

今月、市内で能狂言があるんですが、もうチケットは間に合わない。残念!

若い女の面

綺麗な女の面ですねぇ。


これ以上何も言うことがありません。ごめんなさい。

one0522様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

面(おもて)の裏側が大っぴらになる機会は少ないですね。

というよりも、私の学生時代の師匠は「秘すれば花」というように、
能の裏話はすべきではないとの考えでしたので、楽屋の話は部外秘でした。

今の師匠は、何はともあれ、興味をもってもらわないと始まらない、との考え(だと思う)から、舞台上やその前後のお話をよくして下さいます。

装束や面をじっくりご覧いただいて、きれいだなー、とか、何かを感じていただけたなら、それだけでとてもありがたいことです。

能楽鑑賞に、中途半端な知恵を持つと、「批評家」になってしまいがちです。

批評家の目で見るのは本質を見誤る、と、多くの先生方はおっしゃいます。

素直な目で見ることが大事だそうです。

それに、ずーっと真剣に見ると疲れちゃうので、ぽわーんっと気楽に見るのがいいです。

なので、

面が曲のヒエラルキー(位、といいます)を示していたり、装束の模様が曲の中身の種明かしをしているなど、ちょいとプチな小ネタをご紹介して、お?っと思っていただけるようにしたいなぁと思ってます。

んで。

お友だちからもらった「能の本」は、ぜひ、お部屋をひっくり返してさがしましょー。

おほほほほほほ。

私のお部屋は、ブラックホールです。
ありとあらゆるものが、お部屋にのみ込まれて行方不明になります。

靴下がかたっぽずつしかないです。
どこ行ったのかなー?

雨宮清子(ちから姫)様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

お。ありましたねー、ドラマと映画だと思います。

面(おもて)をかけるときは、おでことほっぺたに、小さな座布団をあてます。

これで面を浮かせ、顔に密着するのを防いでいます。

面は人の顔より小さく出来ているので、密着したらほんとに窒息死。
面の保護のため、ぜーーーーったいに、密着させません。

汗と唾を付けないために、この小さなお座布団は重要です。

まして、面の裏側をなめるなんて気持ち悪いことするわけないです。
おえーっ。

呪いがかけられていて、面の方から触手が出てしがみつくってんなら、話は別ですが。ほほほほ。

昔は謡のお稽古をしているお社中の方々が主な観客で、せっかく本物の能を舞台で演じているのに、手元の謡本に夢中でろくすっぽ見ていない人が多かったです。

もったいないです。

今なら、ネットなどで見る予定の曲の予習(あらすじとみどころ程度でいいです)をしてから、観賞するのも手です。

あまり詳しくなりすぎると、批評家になってしまい、楽しくないです。

批評家の目で見るのは本質を見誤る、と師匠は言ってました。

橋掛かり。

えへ。

私、シテが橋掛かりをこっち向いて出てきたのと、あっち向いて帰っていく後ろ姿だけを見たことが何度もあります。

気持ちよく眠ることができる舞台って、いい舞台なんだそうです。

なんだこりゃ?ぶーぶーっと思うようなものは、眠くならないんですって。

どうぞお気楽に、楽しんでくださいまし。

関西では幸い、「そうだ、能、見よう」と思えばどこかしらで上演があるので、ありがたいことです。

でも、年に数百番以上見てきたもので、あまり「見たい」と思えるものがなくなってしまい、つまんないです。

人間国宝の大槻文蔵先生の舞台は、素直というか爽やかというか、シテ本人の我欲みたいなのがなくて、とてもさわやかですばらしいです。

もし機会がありましたら、何をおいても、とにかく、見てください。

ヨリック様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

いえいえ、そんな。

きれいだなー、っと思っていただけただけでも、とても嬉しいです。

ほんとの面はこんなにきれいなのに、何だ、お前の下手くそな絵はー!っと、もし、笑っていただけていたなら、本望でございます。

能とは何ぞやー!っと構えることは本意ではなく、くすっとしてたら記事が終わった、が、いいです。

マニアックで申し訳ないです。
でも、コメントいただけて、とても嬉しいです。
ありがとうございます!

No title

こんばんは~

能の世界、面白いです^^
面も色々なんですね。
汗、たくさんだと化粧してお稽古は出来ないのか(;´・ω・)

どんな世界でも日々の鍛錬が大事なんだな~
ぽちぽちぽちーーー☆彡

時乃★栞様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

寒いよー。寒いよー。こたつに入って、手袋してますよー。
暖房は頭がすっとぼけるので、最低限。受験生かっ。

面は、二百種類はあるといわれています。
おじいちゃんにもいろいろ、女の人は、もっといろいろです。

基本的に能が出来た頃になかったものは、舞台上でつけてはいけないんです。

メガネ、腕時計、アクセサリー全て、髪はゴムならオケー。
茶髪は叱られる。
ただし、白髪染めはいいのかよって突っ込みは、さらっとスルーです。

能の装束をつけるときは、すっぴん。

お稽古でも、面をかけるときは、すっぴん。

いちいちめんどくさいので、お稽古は、すっぴん。

手の脂でさえ叱られるんですから、ファンデなんてとんでもないことですね。

ほんとに、どんな世界でも、基礎と日々の鍛練は大事ですね。

一番いいお稽古は、初心者の後輩たちへお稽古をつけることです。

相手が初心者だからやさしくかんたんに教えてあげる、というのは大間違いで、初心者だからこそ、本格的に真剣にしないと伝わらないです。

お稽古では、後輩はケロッとしていても、こっちはもう、へろへろ。

それが人にものを教えるということだ、と、先生に習いました。

No title

こんばんは!

>「切顎」といって、下顎が切り離されている点が大きな特徴。

なるほど~初めて聞く言葉です。能については、まったく知識がないので、勉強になりました。
つねまるさんは、何でも極めていらして凄いな~
感心します。

あけましておめでとうございます

本年も宜しくお願いします。

伝統的な何とかの学習とやらで
最近は国語の教科書にも普通に
能やら和歌やらが出てくるので
大変勉強になっています。
「太郎冠者」などは台本だけ載っていて
ただでさえ難しい言葉づかいの中
この笑いをどうやって伝えればいいのだと
もんもんとします・・・。

能の面の目の穴も普通は黒眼サイズなのですね。
なぜか翁の面を見る機会が多いので
てっきり三日月型かと思っていました。
でもどの道視界はかなり狭そうだなあと・・・。
一度、鬼の神楽面をつけさせて頂いたことがあるのですが
見えない、重い、これに衣装とかありえん!
と舞い手の大変さを思い知りました。

能も衣装がずっしりしていそうで
大変だろうなあと思います。

神事でないと能を見る機会は少ないのですが
また宮島へ行った時にでも
翁が出て来ないか、
顎が割れていないかよく見てみます!

しずか様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。
お返事が大変遅れまして、ごめんなさい。

能について詳しくなくても、どこかの神社や博物館などでご覧になっているかもしれません。

えへへ。ほめられて嬉しいなー♪

なのですが、実はあんまり詳しくはないです。

自分が能のシテをつとめたので、そのお稽古の時に先生がいろいろお話してくれたことが大きいです。

ちょっとかぶりついた程度なので、お恥ずかしい限りです。

トロロヅキ様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

あ、そうなんですよ。その学習のおかげで、学校の先生たちへのレクチャーが増えたそうで。

子供たちに教えるには、先生がちゃんと知っていないと嘘を教えることになってしまうから、と、戦々恐々。

子供の頃にはわからなくても、大きくなって「どっかで見た」記憶があるのは、とても大切な事だと思います。

トロロヅキ先生、ふぁいとー。

狂言は文字で見ても楽しくないですよね。
お気持ち、お察しします。

基本的には関西言葉なので、名古屋出身の私にはまずアクセントから難関でしたの。
いろはにほへと、も、大阪弁風に言わないといけなくて、そんなもん出来るわけがなく。

神楽面は、すごいですよね。
重そうですし、迫力満点。あー、神楽、見たい。生で見たいっ。
特に温泉津まで行きながら見えなかった石見神楽の、面とお高い装束が、見たい触れたい。

トロロヅキ様の神楽も見たいなー。

能は、能楽堂で演じる限りは、体が覚えているのでおおよその見当はつきますが、やはりどんな場所でもシテを勤めるプロの先生はすごいなぁと思います。

一番嫌なのは、ライトアップされること。
ぺっかーっと光って、真っ白になるそうです。

能、仕舞の基本の姿は「構え」といいますが、装束を付けて構えると、キシキシと音がします。
でも、洋服で構えるよりも、とても自然に出来るので、あー、古典芸能ってこういうことなんだなーっと思いました。

ぜひ、宮島でご覧になって。
桜の季節にありましたよね。んふふ。

本年もよろしくお願い申し上げます。
またいろいろ教えてくださいね。
プロフィール

つねまる

Author:つねまる
史跡をちょろ見しながら、景色を楽しむゆっくり旅。地味。

古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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◎画像と記事の無断使用厳禁!!
◎丸パクリには断固抗議する!!

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尚、メールでのお返事は致しませんので、コメント欄をご利用ください。

宜しくお願いいたします。

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