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能「翁」とうとうたらりたらりらぁー

こんにちは。

今日は、謡のお話。


例えば、あなたはだぁれ?と尋ねられた天人の言葉

「げに御不審は、御理(おんことわり)。
今は何をか褁(つつ)むべき。
真(まこと)は我は天人なるが。花に引かれて来りたり。」
(『吉野天人』)

(意訳)

「あらやだ、変に思われても当たり前ねー。あのね、実はね、
ほんとは、わたし、天人なのー♪
お花がきれいなのでひかれて来ちゃった。」


一応、文章です。

ところが。

ひとつだけ、何がなんやらわからない言葉の並ぶ謡があります。

とうとうたらりたらりら。たらりあがりいららりどう。
ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう





能では「翁(おきな)」、謡では「神歌(かみうた)」と呼ばれる曲です。

「翁」は、「能にして能に非ず」

と言われる特別な能で、

正式には「式三番(しきさんばん)」といいます。


「演劇としてのストーリーはなく、天下泰平・国土安穏を祈る祈祷の言葉が謡われ、役者が神に変身して祝福の舞を舞うという、神事芸能的な演目となっています。」(銕仙会「翁」より引用)


【能「翁」の構成】

能の上演としては、3部構成。

《シテ方》

1。千歳(せんざい)
面を付けず(直面/ひためん)舞われる若々しい舞。いわば露払い。

2。白い翁
舞台上で白い翁の面(白式尉/はくしきじょう)を着脱します。


《狂言方》

3。黒い翁
「三番三(三番叟)」と呼ばれる部分。

「揉みの段」と「鈴の段」の二部構成で、「鈴の段」では黒い翁の面(黒式尉/こくしきじょう)を付けます。


【神事としての「翁」】

能「翁」は、あくまでも神事。

楽屋(鏡の間)では「翁面」をご神体として祭壇に祀っており、
開幕前には、演者一同が御神酒と洗米を頂き、身を清めます。

次に、後見が火打ち石の切り火により舞台を清めます。

面箱を先頭に、翁(シテ)、千歳、三番三(三番叟)、囃子方等各役が順に舞台へ。


翁は、舞台中央に進み出て下座。
正面に向かって深々と礼をします。

神様へ向かっての礼で、客席にしているわけではありません。



翁(シテ)の前に面(おもて)が入った面箱(wikipediaより引用/観世流)

小鼓が三つ、また、面(おもて)を舞台の上で付ける点が特徴。

翁の面そのものがご神体であり、面を付けることで翁(シテ)が翁の神となるわけです。


【能「翁」に見る謡の面白さ】

まぁ、ご覧あそばして。


翁  とうとうたらりたらりら。たらりあがりいららりどう。
地  ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう
翁  所千代までおはしませ
地  我等も千秋さむらはふ
翁  鶴と亀との齢(よわい)にて
地  幸(さいわい)心に任(まか)せたり
翁  とうどうたらりたらりら
地  ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう



(謡うと、たらりぃーいあがりいーぃららぁらーりどー)


千歳 鳴るハ瀧の水。鳴るハ瀧の水日ハ照るとも
地  絶えずとうたり。ありうどうどうどう
千歳 絶えずとうたり。常にたうたり



千歳が立ち上がり、舞始めます。この間にシテが翁の面を付けます。


千歳 君の千年を經ん事も。
   天津をとめの羽衣よ。鳴るハ瀧の水日ハ照るとも
地  絶えずとうたり。ありうどうどうどう



白い翁の面を付けることで翁の神となったシテが進み出て、
両袖を広げ、天下泰平・国土安穏の祝福の言葉を唱え、舞います。


翁  総角(あげまき)やとんどや
地  ひろばかりやとんどや
翁  座して居たれども
地  まゐらふれんげりやとんどや
翁  千早振(ちはやふる)。神のひこさの昔より。久しかれとぞ祝ひ
地  そよやりちや
(略)
翁  千秋萬歳(せんしゅうばんぜい)の。喜びの舞なれば。
   一舞舞はう萬歳楽(まんざいらく)
地  萬歳楽
翁  萬歳楽
地  萬歳楽 



(画像/丹波篠山の春日神社)


舞い終えた翁は、舞台上で面を外し、翁と千歳は橋掛りより退出。
「翁帰り(おきながえり)」といいます。


次に、狂言方が務める直面(ひためん)の三番三(三番叟)が登場。

地謡との問答の後「ほぅほー、いやー、はっ」等と言いながら舞台の四方をとんとんとん、と踏み固め、激しく飛び上がる「揉(もみ)ノ段」を舞い、

次に黒式尉(こくしきじょう)の面をつけ、神事に見られる鈴(巫女が持つ鈴がいっぱいついたアレ)と扇を手にして、舞台四方を清める仕草をする「鈴ノ段」の舞を舞います。


この狂言方が行う部分は、各地の神社で見られる「三番三(三番叟)」が類似してますので、お近くで上演があるときは、ぜひ。


参考文献

観世流大成版『神歌』(訂正著作/24世観世左近、檜書店発行)

『能楽全史』(横井春野著/檜書店/昭和5)


本年もよろしくお願い申し上げます。
新春の能楽堂では、あちこちで「翁」が上演されています。カチカチと鳴る火打ち石の音に始まり、ぴーんっと張り詰めた空気は格別で、身が引き締まります。躍動的な千歳、重々しい白式尉、激しい動きで舞台を飛びはね、踏み鳴らす三番三の揉みの段など、とても面白い舞台です。

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お正月

金澤で、しかも戦前の生まれであるヨリックです。
金澤では宝生流がメインでしたし、ワタクシの家にも箱に入った謡本の揃いがありました。
金澤という町は(戦前では)空から謡が降ってくる、というほど盛んでしたし、父や叔父も習っていたのでした。
だが戦後は喰うにも事欠き、謡どころではなく、サツマイモを作るために山の木を切り倒したりする毎日でした。父も叔父も戦争のために死にます。
(つい余分なことを書いてしまった。失礼)
翁の解説、、ブログで見るのは初めてのことなので、とてもありがたく思いました。
これからも名場面の映像をアップしてください。

ヨリック様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

まぁ。金澤のご出身でいらしたのですね。

宝生流の謡はとてもきれいだなぁと思います。

狂言の野村万斎先生のおうちは、加賀藩のお抱え能楽師だったそうです。
ただ、武士は「三年片頬」というぐらい、笑うことには抵抗があったため、狂言方はシテ方に比べ下の地位に見られていたとおっしゃってます。

そうですか、お父様と叔父様が。
私の伯父は沖縄で戦死、母と祖母が女二人で名古屋市内の家を守ったそうですが、謡ではなく焼夷弾が雨のように空から降ってきたと聞きました。

名古屋市内を歩くとき、母は「ここは燃えた町、ここは燃えてない町」と一つずつ教えてくれました。

母は昭和4年生まれですが、ヨリック様と同じくらいでしょうか?

サツマイモばかり食べていたのに、母は亡くなるまで焼きいもが大好物でしたよ。あ、すいとんも。

終戦後、まず祖母が謡講(御近所で集まる同好会)を再開し、母が勤務先のクラブ活動で謡と仕舞を始め、遅くに生まれた私もお稽古を始めて四半世紀が経ちます。

使っている謡本は全て祖母のものなので、大切にしたいです。

能の翁は、儀式的な趣ですね。
調べていくと底がないので、今回は不思議な言葉のみに注目してみました。

あ、すみません、だらだらと。

ヨリック様ならではのお話を教えていただき、ありがとうございました。とても懐かしくなりました。

No title

とうとうたらりー

どこかで聞いた覚えがあって、うーん、でも思い出せないんです。ここ10年ほどはお能は見ていないのでたぶん、山奥の神楽か?田遊びか?はたまた私の勘違いか?

面白くてそこだけ頭に残ったのですが、うーん、わかりませんです。
でもつねまるさんのブログ拝見していたら、お能を見たくなりました。

雨宮清子(ちから姫)様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

とうとうたらりたらりらぁー。

さすがでございます。聞き覚えがおありとは。

この言葉は能「翁」(素謡「神歌」)に限らず、神社に伝わる翁舞(三番叟)でも白い翁が登場する場合は謡われると思います。

都でこんなん見てきました♪と、地元でお披露目したものが今も残っているようです。


お釈迦様は説法の前に、芸能で魔を引き付け静かにさせて、その隙に説法しまくったとか。
この芸能こそが「翁」の起源であると世阿弥が『風姿花伝』で述べています。

とうとうたらりたらりら、ですが。

起源は、長らくお笛の唱歌ではと言われておりましたが、最近の研究では比叡山延暦寺の根本中堂の法会で使われた呪師の言葉の中に似た文句があることがわかっております。

つまり、神事能の中で神となる翁がはじめに口にするのが、仏事の言葉というわけで。

このように、能「翁」は、神仏ごっちゃな日本の宗教観や芸能のはじめを表しているとても面白い曲だと思います。

No title

今年はもっと神社などいっぱい回りたいと思ってます♪

健康で楽しい一年になりますよーに(^O^)

今年もよろしくお願いします(^^)

ゆー様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

すみません。そちらへコメントすればよかったですね。

いやいや、数多く行くのもゆっくり行くのも、どちらもそれぞれ楽しみ方があろうかと。

なかなかそちら方面へ行けないでおりますが、いつかゆっくりしっかり巡りたいと思ってます。

ゆー様にも、健康で楽しい一年になりますよーに(о´∀`о)

本年もよろしくお願い申し上げます。

No title

こんばんは。

三番叟
こういうことだったんですか。
「翁)」なのね。
式三番って、こちらの方でも、あちこちの神社で舞われてるんですよ。
佐久にも有名な、「湯原神社の三番叟」っていうのがあって、一度は観に行きたいんだけど、なかなか果たせずにいます。
都から伝わったのかしらね。

≪とうとうたらりたらりら。たらりあがりいららりどう≫
あとで、youtubeでこの部分を聞いてみます。
ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう

万見仙千代様

こんにちは。いつもご多忙の中のご訪問とコメントありがとうございます。

おおお、神社の三番叟、素敵♪
ぜひぜひご覧あそばしてー!

そして、こそこそっと面を見てきてくださいまし。
きっと同じような面を用いているはずです。

能はご存じのように、江戸時代は武家の式楽であり、面白みより内面や形式にこだわり、かたっくるしい姿で残っています。

民衆の中で楽しく演じられてきたものの方が、例えば歌舞伎のように、誰が見てもわかりやすいです。

神社の翁も、また、同じです。

たりらりらん(違)は、能、翁、で検索するとわんさかと出てくると思いますので、ぜひ。

揉みの段も、激しくて面白いですよー。
プロフィール

つねまる

Author:つねまる
史跡をちょろ見しながら、景色を楽しむゆっくり旅。地味。

古典芸能の能楽の、謡と仕舞のお稽古ぐだぐだ日記も。

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