卜蔵家庭園。後醍醐天皇を助けた名和長年と楠正成と卜蔵さんち
松江藩の政策「出雲鉄方法式(てつかたほうしき)」。
享保11年(1726)松江藩は、領内の鉄師9人、たたら10カ所、大鍛冶場3軒半に限定して独占的な経営を保証。
この時定めた鉄師9人は、炭焼きのための広大な森林を所有する大地主でもあり、面々は
櫻井家(奥出雲)、田部(たなべ)家(雲南市吉田町)、絲原(いとはら)家(奥出雲)、卜蔵(ぼくら)家(奥出雲)、杠(ゆずりは)家(奥出雲)等。
このうち、櫻井・卜蔵・田部・絲原は「4鉄師」として維新後も残り、大正の「一斉廃業」まで続きます。
《鉄師・田部(たなべ)家》

菅谷の高殿を中心とする吉田地区は、田部家のたたら。
寛正元年(1460)たたら製鉄操業を開始。
祖は、安西入道の系譜を引く「熊野ノ別当田部湛増ノ孫、田辺隼人正」とされてます。(『国乃礎』「相良英輔/編/松江藩鉄師頭取田部家の研究/島根大学特定研究部門たたら研究プロジェクト/2009」)

田部家のたたら、菅谷高殿。高殿として現存唯一の建物。

炉は操業の都度壊しますが、地下構造は永続して使用可能なので「永代」たたら。
《鉄師・櫻井家》

櫻井家といえば、ダンえもん。いや、塙団右衛門の末裔。

製鉄を人に教えた金屋子神様を自宅にもお祀り。
【鉄師・卜蔵家】

ぼくら、です。
卜蔵(ぼくら)家のたたら製鉄操業の最後の村下(むらげ/たたら製鉄の総技術監督)さんが、現在の村下さんの師匠。
門外不出、一子相伝であった村下の仕事をたたらの継承のため、全くの他人である人達へ教え込んだ方です。

島根県奥出雲町竹崎の追谷集落の入口にある卜蔵氏庭園。
現在は庭園のみが残ります。
さて、卜蔵家とはどんなおうち?
ちょっとその前に。
《山陰と南北朝》

鳥取県北西端に位置する大山(だいせん)。
大山の北側(伯耆国)に「名和長年」という人あり。
村上源氏を自称するも、出自不詳。
元弘元年(1331)元弘の乱。
後醍醐天皇、鎌倉幕府の討幕計画が露見し隠岐島に流罪。
同3年(正慶2年/1333)隠岐島脱出。
名和長年、後醍醐天皇を船上山(現・鳥取県東伯郡琴浦町)に迎え、討幕運動に参加、勝利。(wikipediaより)
建武中興の一翼を荷い、伯耆・因幡の守護となった長年ですが、 足利尊氏の東上を京都で迎撃し、一族とともに奮戦し討死。
南北両朝時代になり急速に山陰へ北朝の勢力が浸透すると、名和氏とその一族は九州へ。
末裔は、戦国時代を生き延び、柳川藩主立花氏の家臣となり明治。

南北朝といえば、楠正成(まさしげ)。なんこうさん。
河内国の住人。後醍醐天皇の討幕運動に参加。
建武中興が実現すると功により河内・和泉の守護。
離反した足利尊氏を一時は九州に追いやるも、再び東上した尊氏を兵庫で迎え撃ち湊川で敗死。

楠木正成・正行父子訣別の「桜井の別れ」の場面
さて、卜蔵氏です。
卜蔵氏の祖は、系図によれば、河内国の楠正成の弟・正氏と伯耆国の名和長年の弟・太郎左衛門の娘との間に生れた「楠太郎左衛門正秀」。
南北両朝時代になり急速に山陰へ北朝の勢力が浸透すると、名和氏とその一族は九州へ移りますが、一部は伯耆の西部に隠栖。
勝太郎も伯耆に残り、伯耆・出雲の守護・山名時氏に仕えます。
明応4年(1495)横田庄内竹崎村に移り、土着。
11代より楠氏から卜蔵に改姓。

現在「卜蔵氏庭園」が残る島根県奥出雲町竹崎の追谷に居を構え、
十年畑村に住んだ一族が製鉄を始めます。
これが松江藩の定めた9鉄師のひとつ「卜蔵家」の始まり。

卜蔵氏庭園。関西から庭師を呼んで作らせたとか。
江戸初期、特に形式から元禄の頃の作庭と推定されるこの庭園は、滝石組が三段、約260坪の池泉観賞式の庭園で、現在は外垣の木が高くなっていますが、船通山を借景に取り入れた構図になっているそうです。(現地説明板より)
現在は居宅はなく、代わりに山菜料理&手打ち蕎麦のお店があります。
卜蔵家庭園
《住所》島根県仁多郡奥出雲町竹崎800
前記事の鉄穴流し本場跡や山ノ神神社より南西
いつも応援いただきありがとうございます。
庭園の見方はよくわからないので、ぼーっと眺めて参りました。お向かいには、公民館があり、地域の憩いの場になっている雰囲気です。卜蔵家もまた、伝承によれば武家の出身のようですね。膨大な面積の森林を必要とするたたら製鉄操業ですから、奥出雲では「土地持ち」の土豪が鉄師となっていった、と。さて、次は卜蔵家のたたら跡を見学へ。鉄子の旅はまだ続く。



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