「鉄穴流し」と棚田の風景。たたら製鉄が生み出す景観

たたら製鉄操業によって作られるのは、

ケラ。
これを部位毎に分けて(大鍛冶)、日本刀や鉄器にトンテンカン(小鍛冶)。
ケラは、「かねへんに母」と書きます。
鉄のお母さん。まさにこれ。

たたら製鉄の材料は、砂鉄。
滋賀県に数十箇所分布する古代製鉄遺跡では「鉄鉱石」を用いていますが、時代が下り中国山地で盛んに行われたたたら製鉄操業では、砂鉄を原料とします。

この砂鉄、どこから来たのかな?
【砂鉄の種類】
砂鉄は、主に花崗岩などの岩石の中に含まれます。

砂鉄の採集場に残ってました。
砂鉄は採集する場所によって、山砂鉄、川砂鉄、海砂鉄があり。
①山砂鉄
風化した花崗岩系の山を崩して採取するのが、山砂鉄。
たたら製鉄操業では主に山砂鉄を用います。
②川砂鉄
山砂鉄が河川に流入し、下流域に堆積したものを採取するのが川砂鉄。

浅い下流域で作業するので、船底が平ら。
③海砂鉄
川からさらに海へ出た砂鉄は海浜に打ち上げられて砂浜のように堆積。
これを採取するのが海砂鉄。
【砂鉄をとりましょ、お山から~♪】

奥出雲をドライブすると、棚田が連続。

これは熊野古道の近くの、丸山千枚田(三重県)。
平地の少ない山間部で見られる棚田は、一枚ずつが細かいですが、
ごく最近に整地されたように大きな田んぼが丘陵一帯に広がります。
この奥出雲の風景を作り出したのが、たたら。
《山砂鉄の採取方法》

風化した軟質花崗岩などが露出する山。

風化してるので、サクサクと切り崩す事が出来ます。

山砂鉄の山土に対する含有量は、0.5~10%程度。
山の上に貯水池を作り、

切り崩した山土を、水路(走りまたは井出)に流し込むと

押し流される間に土砂は破砕されて土砂と砂鉄が分離

分離された砂鉄は下場(洗場、本場)の砂溜まりに堆積。

さらに選鉱場で土砂と砂鉄を分離。
この山砂鉄の「採取」と「選鉱(洗鉱)」を「鉄穴(かんな)流し」といいます。
慶長年間に出雲に入った堀尾吉晴が慶長15年(1610)斐伊川上流での鉄穴流しを禁止しており(日立金属『たたらの歴史』)、これ以前から行われていたことがわかります。
最盛期は18世紀中頃。
幕末期の記録『芸藩通志』『日本山海名物図会』『鉄山秘書』等に残っており(和鋼博物館『鉄穴流し』)、これは同時に奥出雲でのたたら製鉄の発展時期と重なります。
しかし、下流域では。
膨大な土砂が下流に沈殿し、川床が上がり天井川となり洪水発生。
また、鉄穴流しに用いる水は農業でも灌漑に必要。
河水の汚濁により潅漑ができなくなる。
このため、鉄山師と農民との間で争いが起こり、藩命による鉄穴流し禁止令がしばしば出されることに。
よって、砂鉄の採集は普通秋の彼岸から春の彼岸までの「冬場の農閑期」に限って行われました。
「奥出雲のたたらと棚田の文化的景観」
鉄穴流しの跡地や、土砂流出によって膨大な土砂が下流に堆積して生じた平地は田畑として耕作され、山内(さんない:たたら集団の集落)の食糧の一部を補いました。今日、中国山地で棚田として残っているものはこのようにして形成されたものが多いのです。(和鋼博物館)

大切な所は削らず島のように残るのが奥出雲の棚田の特徴。

砂鉄と山土を流すための貯水池と水路は、農業でも活躍。
奥出雲町の横田地区では3分の1以上の水田に当たる535ヘクタールが鉄穴流しで造られたとか。
《たたら製鉄と森林保護》

たたら製鉄には砂鉄と共に大量の炭、つまり、広大な森林が必要。
たたら1カ所、大鍛冶場2軒で年間130町歩(約1.28平方km)、30年伐期で3900町歩(約38.67平方km)の森林が必要。(明治期の絲原家の見積による)
産業として持続するには、森林資源の永続的な確保が必須。
そこで松江藩がとった政策が「出雲鉄方法式(てつかたほうしき)」。
享保11年(1726)松江藩は、領内の鉄師9人、たたら10カ所、大鍛冶場3軒半に限定して独占的な経営を保証し、鉄師が持つ山、他人の山、村人達が所有する山で焼かれる炭を買う特権を付与。
伐採する場所と範囲を細かく取り決め、森林保護に努めました。
山をおハゲちゃんにすることなく森林保護をしながら炭を作り、山砂鉄採取後には農地を広げた結果が、この地域の景観。
「奥出雲のたたらと棚田の文化的景観」として売り出し中です。
いつも応援いただきありがとうございます。
たたら製鉄により生み出された農地は、奥出雲特産の「仁多米」を育てます。美味しいお米と豊かな水のあるところには、無論、美味しいお酒がありまして。うっはうっはな地域なのですわ。稲刈りの終わった間抜けな時期に訪れたので、春の田植え時や黄金に輝く秋にまた行きたいです。



お手数をおかけ致します。ありがとうございます。
- 関連記事
-
-
金屋子神社(2)狛犬ズ。怪我した子のお手当とキレキレおちり
-
金屋子神社(1)出土した巨大なケラの数々と足立美術館
-
稲田神社。クシナダヒメを祀るお社と姫のそば
-
原たたら跡。松江藩鉄師卜蔵家の主力炉から叢雲たたらへ
-
卜蔵家庭園。後醍醐天皇を助けた名和長年と楠正成と卜蔵さんち
-
山ノ神神社。鉄穴流し本場と砂鉄採掘場に鎮座する小さなお社
-
比内谷鉱山鉄穴流し本場跡。純度80パーセントの砂鉄作り
-
「鉄穴流し」と棚田の風景。たたら製鉄が生み出す景観
-
島根県雲南市出雲湯村温泉で、やどめし
-
製鉄遺跡の目印「ノロ」と菅谷たたら山内の風景
-
菅谷たたら山内。たたら製鉄と村下(むらげ)さん
-
菅谷高殿を構える前のたたらの形。古代たたら製鉄操業再元より
-
菅谷たたら山内。たたら製鉄集団の暮らす風景と菅谷高殿
-
たたら角炉伝承館。たたらの炎、消える
-
塙団右衛門末裔・松江藩鉄師頭取役櫻井家の金屋子神社と鎮守神社
-