「真田丸」内野家康使用の扇と戦国能楽事情。武田信玄の猿楽
大河ドラマの「真田丸」。
東国にとんと疎いので、今年は記事に出来ないな~と思っておりました。
でも、私だって「真田丸」のお話がしたーい。
ら。
出た。
先週、穴山梅雪と徳川家康の対談の場面。

もしやーもしやー。

きゃっほー♪
観世流仕舞扇のご利用、まいどー♪

私のお稽古用扇なので、汚くてごめんなさい。
仕舞と謡の時に使用する扇を、仕舞扇、正確には「鎮扇(しずめおうぎ)」と称します。
観世・宝生・金春・金剛・喜多の各流派によって、扇の仕様が異なります。
観世流の仕舞扇の特徴として、

要がまぁるい。

親骨に三つ彫り。

三段の水巻の文様、いわゆる「観世水」が描かれています。
他の流派では。

宝生流。「宝生五雲」という5つの雲。

金剛流。「金剛雲」や「九曜星」という華やかな柄。

金春流は、5つの丸紋が描かれた「五星」

喜多流は、3つの雲が描かれた「三雲」。
細かく言えば骨の断面も異なるなどありますが、どうでしょう。
親骨に三つ彫りがあるのが観世流の扇だけなのが見えましたでしょうか?
(各扇の画像は京扇堂様のHPより拝借しました)
京扇堂様のHPはこちら。http://www.kyosendo.co.jp/shop/
ってことで、遅まきながら私もやるの、真田丸。

ええ、もちろん、能楽が出たら、です。ほほほほ。
【戦国時代と能楽】
猿楽を元にする能楽は、足利義満、豊臣秀吉、徳川家康など、時の権力者の庇護の下で発展し、江戸幕府において「武家の式楽」となり最盛期を迎えます。

(福知山市一宮神社の能舞台)
応仁の乱から戦国時代にもなると、能の最大の庇護者であった足利幕府の威光が失われます。
ぴーんちっ。
能役者たちは、一座を維持するために新たなパトロンを求め、畿内から地方に下ります。
・九州の大友氏 ← 金春禅竹の孫、金春禅鳳
・小田原の北條氏 ← 宝生座の宝生家
・浜松の徳川家康 ← 観世座の観世元忠
・越後の上杉謙信 ← 大鼓方の大蔵二助虎家
ほんの一例ですが、戦国武将達の群雄割拠の中で、都から地方へ能楽は流動したことの意味は大きく。
これは、後の安土桃山時代、江戸時代に能が隆盛する下地となりました。
【武田信玄と能楽】
甲斐国の武田信玄のもとへ流れてきた猿楽師がいます。

まず、武田信玄の家臣団の中で、猿楽師はどれ程いたのでしょう。
「観世大夫・大蔵大夫。両座あわせて(子役を入れて)五十一人。
大蔵大夫は名人といわれた。もっぱら、大蔵彦右衛門は脇、みますや弥右衛門は小鼓、こうの孫次郎、長命勘左衛門は狂言をした。そしていつもの客はもと美濃守土岐頼芸と旧近江の守護佐々木義賢の子、義治であった。この二人は国を追われて武田家に厄介になった。 」
(『甲州武田家臣団』土橋治重氏著)
これによると、シテ・ワキ・囃子・狂言方が揃い、金春に限らず観世もおり、かなりまとまった人員を抱えていたようです。
名人といわれた「大蔵大夫」が、「大蔵大夫十郎信安」。
この人が、武田信玄の元へ流れてきた猿楽師。
徳川家康の家臣で、石見銀山や佐渡金山開発に携わり、江戸幕府勘定奉行、老中となった大久保長安のパパ。

信安の父・大蔵道入は春日大社で奉仕する大和猿楽金春座の猿楽師。
金春座の支流のうち名家なのは、大蔵座。
共に秦氏を祖とし、その後も血縁関係にある金春家と大蔵家は、相互跡継(跡継ぎがない場合、片方より入る)の関係にもありました。
道入の子のうち道違と道智はそれぞれ小鼓方と大鼓方の祖(現在の大倉流)となり、末子が大蔵大夫となります。
これが「大蔵大夫十郎信安」で、大和国から播磨国大蔵、そして甲斐国へ。
甲斐武田家の猿楽大夫(武田信玄お抱えの猿楽師)として仕えたのでした。
参考文献
『能・狂言なんでも質問箱』(山崎有一郎・葛西聖司著/檜書店)
『能・狂言事典』(西野春雄・羽田昶 編集委員/平凡社)
『甲州武田家臣団』(土橋治重著/新人物往来社 )
いつも応援いただきありがとうございます。
ここまでせっせと書きながら聞いていた(後でゆっくり観るつもり)真田丸紀行。「境内に本格的な能舞台を建て・・・」って声が聞こえて、ぶおおおー!っとテレビにかじりついたら、まさかの滝川一益。かくん。堺から都への道中で、「ストップストップ」と家康が取り出した扇も、前回と同じ扇でした。にやり。



ぽちぽちぽっち、ありがとうございます。
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